講師紹介 竹内優斗
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アライナー矯正の代表として知られているインビザライン。
しかし、アライナー矯正を行ったことがない歯科医師の方からしたら、アライナー治療へ踏み出すのに不安があるのではないでしょうか。
この講義では、歯科医師の竹内先生をお迎えして初めてアライナー矯正を行う先生に向けて知っておきたいポイントとコツ、注意点を解説していただきます。
・これからインビザラインを取り入れる先生
・アライナー矯正について詳しく知りたい先生
・アライナー矯正の知見を深めたい・復習したい先生
竹内優斗先生は、兵庫県出身で大阪大学歯学部卒業後、大学病院や医療法人での勤務を経て、現在は神戸市でご開業されているとのことです。
驚くほど充実した経歴をお持ちですね。
また、日本矯正歯科学会認定医の資格もお持ちとのことで、矯正歯科治療に関する専門的な知識と技術をお持ちとのこと。
そういった専門性を活かして、今回はインビザラインを始めたばかりの方向けに、適した症例の選び方という興味深いテーマについてお話しいただきます。
専門医ならではの視点から、インビザラインをより多くの患者さんに安心して導入していただくためのポイントをぜひ学んでいきましょう!
クリンチェックで重要な7つのポイント
アライナー矯正のクリンチェックで重要な7つのポイントをご説明いただきました。
内容は以下のとおりです。
1. 咬合関係
2. 上下のオーバージェット、オーバーバイト
3. 歯の傾斜や捻転
4. 叢生の程度
5. スピーと湾曲の程度
6. 骨格的問題
7. 全体的に歯が動くかどうかの実現可能性
このような7つの観点から総合的に評価し、アライナー矯正での治療が可能かどうかを見極めるという流れとのこと。
アライナー矯正にはそれぞれ得意な動きと不得意な動きがあるとのことですが、その点も含めて症例選択において、留意すべき点だと思います。
アライナーでの矯正治療の導入を検討されている先生方にとって、症例選択の考え方は重要なポイントだと思います。
アライナー矯正をするうえで、アライナーの得意な動きと不得意な動きについてここできちんと復習しておきましょう。
アライナーが得意とする動きは以下のとおりです。
・傾斜移動
・歯列の拡大
・軽度の回転移動
・臼歯の遠心移動(2.5mmまで)
・前歯部の圧下
アライナーが不得意な動きとしては、次のとおりになります。
・臼歯の近心移動
・前歯部の挺出
・前歯部の遠心移動
・極端な回転移動
・エラスティックを使用した極端な歯列の前後移動
これらの特性を理解した上で、症例に対してアライナー矯正がふさわしいかどうかを判断していく必要があります。
アライナーの得意不得意を踏まえた上で、竹内先生が冒頭で挙げていただいた7つのポイントに基づいて症例を評価していくことが、 適切な症例選択につながるのだと思います。
読者の皆様にとっても、アライナー治療の導入を検討するうえで参考にしてくださいね。
ここでは、実際に3Dコントロールを使ってクリンチェックを見ていきましょう。
40歳男性の主訴|前歯の叢生
初診時の状態が動画で確認できますので、是非ご覧ください。
アングルの分類に基づいて咬合関係とアライナー矯正での対応可能な症例についてみていきましょう。
アングルの分類では、
・クラスⅠ:上顎第一大臼歯の近心頬側咬頭が下顎第一大臼歯の頬側溝に咬合
・クラスⅡ:上顎第一大臼歯が近心に位置
・クラスⅢ:上顎第一大臼歯が遠心に位置
といったように3つに分類されるとのこと。
今回の症例はクラスⅠの咬合関係であり、アライナー矯正で対応しやすい症例です。
一方でクラスⅡの症例でも上顎大臼歯の遠心移動量が2.5mm程度までであれば、アライナー矯正の適応になる可能性があるそうです。
ただし、クラスⅢの不正咬合に対してはアライナー矯正での対応が難しいことが多く、治療経験の浅い先生方は慎重に症例を選択する必要があると竹内先生からご意見をいただきました。
実際に私が歯科クリニックに務めていた際でも、医院長にクラスⅠの矯正は手が出しやすいと判断していいと聞いたことがあります。
アライナー矯正を始めたばかりの方は、自身の得意な分野の施術とクラスⅠを選ぶようにすると良いかもしれません。
オーバージェットとオーバーバイトは、前歯の水平的・垂直的な位置関係だけでなく、歯の傾斜とも密接に関連しています。
アライナー矯正で対応しやすい症例として、竹内先生は、
・上下顎前歯が唇側傾斜しており、傾斜移動だけで改善が見込める症例
・前歯部の反対咬合が軽度で、上顎前歯の唇側傾斜移動だけで改善可能な症例
が挙げられるとのことです。
一方で、オーバーバイト・ディープバイトを呈するような症例では、上顎前歯の圧下と唇側傾斜移動が必要となるため、アライナー単独での治療は難しくなります。
特にアライナー矯正の経験が浅い先生方は、こうした症例については慎重に対応する必要があるとのことでした。
アライナー矯正を始めたばかりの先生方は、オーバージェット・オーバーバイトの症例から経験を積んでいくのが賢明だということです。
叢生の程度、特に歯列弓内での歯のスペース不足の程度を把握することは、アライナー矯正を選択する上で非常に重要なポイントだと分かりましたね。
矯正歯科学的には「アーチレングスディスクレパンシー」と呼ばれる概念だとのこと。
従来、叢生の改善には歯列弓の拡大やストリッピングが主に用いられてきましたが限界があるため、特に4mm以上の叢生症例ではこれらの方法だけでは対応が難しく、抜歯も検討せざるを得ないとのことです。
この場合、口腔内写真やクリンチェックの画像から叢生の程度を評価し、隣在歯との重なりの程度から歯列弓内のスペース不足量を推定します。
3mm程度の叢生であれば、ストリッピングと歯の傾斜移動を組み合わせることで、アライナーでの改善が期待できるとのこと。
口腔内写真等から叢生の程度をある程度評価できるという竹内先生の症例選択の一助になると思います。
IPRを行う場合は4mm以上削るのは危険です。
削った分は戻ってきません…。
この加減は注意が必要だと臨床の場にいる際、よく見て参りましたので納得できるお話でした。
アライナー矯正においてスピンカーブをどの程度平坦化させ、前歯がどの程度唇側傾斜するのかを慎重に評価した上で、顎骨の形態も考慮しながら治療方針を立てていく必要があります。
矯正歯科学的にはこの湾曲を保ちながら歯列を改善していくのが理想的とされますが、実際にはレベリングのために前歯を圧下させたり唇側傾斜させたりすることでスピーカーブを平坦化せざるを得ない場合が多いのだそうです。
スピーカーブの治療において、臨床現場では私自身があまり関わることがなかったので、ここまで難しいと思っていなかったため正直驚きました。
前歯部のスペースが必要となるため、叢生の程度から予想されるよりも上下顎前歯が唇側に傾斜してしまう可能性があり、上顎前歯が挺出しているケースもあるとのこと。
スピーカーブが深いようなディープバイト症例では、アライナーによる圧下の影響で前歯が大きく唇側傾斜してしまうリスクが高いという竹内先生のアドバイスは勉強になりました。
また、スピーカーブの評価に関して、前歯部だけでなく臼歯部の湾曲の程度も重要です。
その理由は、顎骨の形態とも密接に関連しているというお話でした。
スピーカーブをそのままにアライナー矯正を行うと、想定している歯牙移動が起こらないため、アライナー枚数が増えてしまうため、この点は注意が必要ですよ。
臨床現場で得た知見ですが、比較的歯槽骨の骨幅は特に女性は薄い傾向があります。
ですが患者様それぞれの歯槽骨の幅を知ろうとしたらセファロ分析が必須です。
理想的にはCTも活用するといいでしょう。
クリンチェック上では理想的な歯の移動が表示されていても、実際の治療ではその通りに歯が動くとは限らないため、アライナーの特性を理解した上で、実現可能な歯の移動を見極めることが非常に重要だとよく分かりました。
アライナー矯正で実現可能な歯の移動としては、アライナーが得意とする傾斜移動や軽度の回転移動などが多く含まれている症例が適しているとのこと。
逆に、アライナーが不得意とする大臼歯の近心移動や極端な歯の移動が多い症例では、途中でアライナーの追加製作が必要になったり、理想的な咬合が得られなかったりするリスクが高いということです。
アライナー矯正を始めたばかりの先生方は、得意な動きが多く組み込まれた症例を選択するのが賢明だというご提案をいただきました。
3Dコントロールをパッと見た際には、ざっくりではありますがアライナー矯正が可能かどうかを見た際、想定している動きが起こると判断してしまいがちです。
ですが、クリンチェックを行う際は得意な施術を踏まえた上でアライナー矯正を行うことが成功の秘訣になります。
10枚以内であれば1回の治療計画で対応可能な高い予知性が期待でき、20〜25枚程度であれば最終的な仕上げのために追加のアライナーが必要になる可能性がある一方、50枚を超えるような症例では途中でのアライナー追加製作が必要になる可能性が高いため、治療経験の浅い先生方には難しいというご指摘です。
今回の症例では、クラスⅠの咬合関係で前歯部の叢生が主な問題点であり、ストリッピングと傾斜移動を組み合わせることで21枚のアライナーにて対応されたとのこと。
治療終了時の口腔内写真(ぜひ動画をご覧ください)を見ても、理想的な咬合が獲得されており、アライナーの特性を活かした適切な症例選択と治療設計の重要性が確認できます。
竹内先生からアライナー矯正を始めたばかりの先生方でも手を出せる症例の選び方について、7つの重要なポイントを解説いただきました。
改めてまとめますと、以下の点がポイントになります。
1. 咬合関係
2. 前歯のオーバージェットとオーバーバイト
3. 前歯の傾斜角度
4. 叢生の程度
5. スピーカーブの湾曲度
6. 歯槽骨の骨形態
7. クリンチェック上での実現可能な歯の移動
これらの項目を順番に評価していくことで、その症例がアライナー矯正で対応可能かどうかの判断がつきやすくなるとのことでした。
特に、咬合関係と前歯の被蓋関係を見極めた上で、前歯の傾斜角度も評価することが重要だというお話と、叢生の程度とスピーカーブの湾曲度から、ストリッピングや圧下の必要性を検討する点は知見が浅かったため、とても勉強になりました。
歯槽骨の形態を考慮しながら歯の移動の限界を見極めていくという流れは、執筆者である私を含め読者の先生方にとって大変参考になったのではないでしょうか。
今回ご提示いただいた7つのポイントに沿って症例を見ていくことで、アライナー矯正の適応症例を的確に選択し、より高い治療結果を得ることができると思います。
ぜひ今後の治療の参考にしていただけたら幸いです。
最後までお読みくださり、ありがとうございました。
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編集・執筆
歯科専門ライター:萩原 すう