講師紹介 山岡智
- 山岡智
- 合同SYアソシエイツ 代表社員
- 日本矯正歯科学会 認定医
- これまで8件の歯科医院の矯正部門の新規立ち上げを行う。 現在、名古屋と大阪で予知性の高いアライナー型矯正治療を自らを行うことに加えて、アライナー型矯正治療を導入したクリニックの診断・臨床サポートにも携わる。 アライナー矯正に限らず、プロファイルファーストの矯正学的診断法を実践し、提携クリニックにも共有することでクリニックの矯正治療部門のボトムアップを図っている。
- プロフィールページ
日本矯正歯科学会認定医の山岡先生への症例相談の模様を収録いたしました。
どの視点で何を見ているのか。症例相談を受けながら山岡先生が投げかける質問にもヒントがたくさん詰まっています。
アライナー矯正を行う先生にはもってこいのコンテンツです。
●マウスピース矯正を取り入れている先生
●日々の診療で困っている事がある先生
●クリンチェックを学びたい先生
ORTCでは、症例診断に迷われる歯科医師や歯科衛生士の方に向けて、症例相談企画を行なっています。今回は山岡智先生をお招きして、とある歯科医師の方の症例相談にのって頂きます。
山岡智先生は矯正に関しての知見が深い先生です。ぜひこれを機に1つでも新しい学びを持ち帰ってくだされば幸いです。
まずはお悩みの歯科医師の方からお話を伺いましょう。
症例は33歳の女性。自身の歯で一生を過ごしたいという願いから、この度診断をすることとなったそうです。
《主訴》
・歯並びがガタガタ
・口腔内の手入れがしやすいようにしたい
この2つの主訴は、前述した一生を自身の歯で過ごしたいという思いからだそうです。
担当歯科医師の簡易的な所見としては、下顎前歯部の重度叢生が見られ、舌側に歯根に傾斜があり、歯列は狭窄していると判断されました。
今回の症例に対する担当医師の所見は以下の通りです。
・上下顎とも、舌側に傾斜
・狭窄歯列
・上下顎正中線は 軽度不一致
・歯肉は比較的薄い
・下顎の前歯は重度の叢生
・左右の犬歯及び大臼歯の関係はプラス1
・犬歯関係は叢生が激しいので、オーバージェットは大きい
・左上に大きな銀歯あり
・オトガイ筋の緊張
・側方のインラインに関しては、突出
・咬合平面は、比較的水平
・顎関節のレントゲンから下顎頭の左右差
・最大開口量も最適な45度
・左上6番には、メタルがある
・頸椎は、えー、ややストレートネックの傾向
・舌は、えー、やや低位
・口元に関しては、患者さんは「口元を引きたい」という主訴はなし
上記の担当医師が考えている計画としては、インビザラインで治療する場合にはアタッチメントが取れやすいと見通しを立てております。
口唇はオーバージェットがかなり大きいことから、オトガイ筋の緊張が生じていると考えており、セファロ分析はリケッツ法で行い、
・最大開口時、左右の下顎角のずれが大きい
・左の下顎頭のずれの方が大きい
という点から上下前突下顎の後退型と判断しています。
担当医師の基礎治療において、山岡先生はまず下顎位に関して着目しているかどうかを尋ねました。
「顎位の中心とICDが、ほぼ変わらないという風に判断していることから、開閉口等も、同じ軌跡を習慣的にたどっていました。その点から見ても安定していると判断したので、この顎位でいこうという感じで、考えています」
そう仰る担当医師の回答に、「その判断は良いと思います」とのことでした。
次に山岡先生が尋ねた点は、横顔のプロファイルです。
今後の治療計画に関係してくるので、主観含めて担当医師に回答を求めました。
「リケッツ分析ですよね。リケッツはEラインとかを提唱してますから、Eラインが引いてあると思うんです。 先生(担当歯科医師)の主観としては、口元に関してはどういう風に考えてますか?」
Eラインより突出している場合、前突する可能性があります。
今回患者さんからはその点に関して気にしている様子はないようですが、どう考えているのか、山岡先生からサポートが入りました。
担当歯科医師は、「今のトレースだけを見ると、Eラインより突出してるので、やや上下前突な感じはするんですけど」と話をしたうえで、「1番大事なのは、患者さんがどう感じてるかだと思います」と回答されました。
・患者さんが気にしていないこと
・オトガイの過緊張はオーバージェットが解決すれば緊張が緩和
この2点が改善すれば側頬は完全しキレイに見えるのではと考えているそうです。
担当歯科医師の治療計画では、現在非抜歯で行こうとプランを作っています。
ですがここにおける問題点として、
・関節、骨格や筋肉に歪みが認められたこと
・舌の位置が低いっていうこと
・上下ともに歯が内側に倒れて、歯列弓が狭くなっていること
上顎前突下顎後退型で、オーバージェットが大きいため、オトガイ筋が、過緊張してるのではないかということを考えて、マウスピースインビザラインのみで施術。
基本的には、クワドヘリックスで拡大をしていたそうです。
この際、下顎にバイオテンプレートのスプリント形式のタイプを用いて顎位はもちろん、筋神経機構をリセットするような治療を導入し、その後インビザラインをするようにしていらっしゃったとのこと。
2番目の問題点に関しては、抜歯、もしくは非抜歯どちらでも可能だとと考えたのですが、「口元をどうしたいか?」「どういう方針、治療方針で進めるか?」という点で、患者さんと相談をしました。
その相談の結果としては、「下顎の叢生がかなり激しいので、拡大とIPRだけで治療が可能なのであれば、 1つの治療方針として考えましょう」ということで、患者さんには拡大が終わった段階で、もう一度相談する、という流れにしているそうです。
「パソコン上で、期待している歯の移動数値を入力すると、どうしても下顎が遠心移動している形になってしまいます。ですが実際には上下遠心移動っていうのは、難しいと思ってるので、細かいところはクリンチェックで考えていこうと思っています」
担当歯科医師は続けて、矮小歯に関しても患者さんと相談して、スペースを作って、ま、ラミネートベニアか、もしくはダイレクトボンディングも検討していると仰いました。
しかし 患者さんからは、特に気になっていないということなので、 このままスペースを閉じてほしい、と言われているとのこと。
結果的に、これにて基礎治療が終わったようでした。
基礎治療の話を聞いた山岡先生は、「非抜歯で、青から赤に引っ込むっていうことですよね。右側の上顎の中切歯は、非抜歯だと何ミリぐらい後方に行きそうですか?」と尋ねました。
担当歯科医師は「3ミリほど後方に下がる予定です」とのこと。
「中切歯は3、4ミリ。初診時より、非抜歯で後ろに歯を移動させるということですね。青から赤にこう、青から赤の中切歯が圧下してるように見えるんですけども、これは何ミリ圧下してるんですか?」という山岡先生の追加の質問に、
「これも3ミリほど圧下しています」
と担当歯科医師が回答しました。
担当歯科医師は「この基礎治療が終わった段階で、顎位等はチェックしてます。
ここで僕が1番、この基礎治療を挟んで失敗したなと思っている事がありまして…」
山岡先生は「どの点がでしょうか?」と詳しく話を促しました。
担当歯科医師は「歯根が傾斜していると早期接触が出てしまって、 顎位は安定してるんですけど、早期接触を経ることで顎位がずれてしまうのでは…と」
山岡先生はこの悩みに「なるほど」と頷いておられました。
基礎治療を挟んだことに対して「失敗した…」と悩む歯科医師に対して、山岡先生は「今日7月22日(収録日)ですけど、7月9日に拡大する装置を外して、 その次の来院日までは、何かお口の中に装置は入っているのでしょうか?何も入れずフリーにしているのか、または エシックスみたいな透明なやつで抑えてるのか…アプライアンスは入れてるのかなと思いまして」
山岡先生の質問に歯科医師の方は「7月7日にリムーブしてから、およそ1ヶ月ぐらいなので、その間は0.5ミリのリテーナーを入れています」とのこと。
担当歯科医師の返答に、山岡先生はなるほど!といった様子で「シックスに入れてるってことですよね?0.5ミリのクリアリテーナーを上下に入れてもらっているということか」とお答えになりました。
歯科医師の方は続けて「マウスピース矯正用という風に説明して装着の練習していただいて、1ヶ月後に、 アタッチメントつけて、動かしていくという流れで患者さんには説明しています」
「いいですね。クリアリテーナーを、インザラインの始まる前の練習のように使うというアイデアは いいですね」と山岡先生は感心された様子でした。
基礎治療を経て、再度クリンチェックを行い、担当歯科医師は「大臼歯から動かしちゃってるので、 抜歯症例は特に固定源としての役目が失われてしまっているんじゃないかと…そのため、非抜歯計画を進めて行こうと考えているのです」 と仰いました。続けて「本当に失敗したなと…反省しております」
担当歯科医師の言葉を受けて、山岡先生は再度クリンチェックの確認をし、非抜歯で計画進めることを確認されました。そして直近の患者さんの治療はどのような形なのか尋ねると、担当歯科医師は
「基礎治療が終わってから2週間後、クリーニングに来ていただいているので、その時に抜歯するか、または非抜歯にするか相談をします。度の症例でも、抜歯がすでに決まっている方は 治療計画を説明し、快諾されたらそれぞれの処置に進みます。」
と答えた後に、担当歯科医師は、「でも…難易度が高いんですよ」と付け加えるように仰いました。
「下顎の、 右側3番あたりは、近心傾斜してるので、アップライトするだけで、抜歯スペースの半分ぐらいまで持っていくことは容易だと思うんですが、下顎右側2番が遠心傾斜かつ挺出してるので、 この部分のコントロールは難しいと思っています。で、 ですから、非抜歯でやりたいと考えているのです」
現状を踏まえた上での今後の治療計画をお聞きになった山岡先生は頷いて「非抜歯で進めていくことが、先生(担当歯科医師)の中では推しプランになっているということですね」と結論をまとめてくださいました。
今回相談に訪れている、この症例の担当医師の方は保守的な部分をお持ちなようです。非抜歯の方が安心だと考えられています。
現在気にしていない患者さんがもし「口元を引きたい」と言った場合、柔軟に対応できるかが気になるところだそうです。
矯正が始まっていく途中で患者さんの以降が変わることは良くあること。歯科医師には、現状から患者さんの望む状態に治療形態を変えていく柔軟力が求められるのですね。
どんな歯科医師でも、患者さんや主訴が違えば求められる治療法は変わってきます。
歯科医師、また側に控える歯科衛生士の方こそ、症例を多く知っていると自身の診察にも活かせるので、詳しくは動画内でご確認くださると幸いです。
所見をお互いに共有した上で、今後は山岡智先生がクリンチェックを拝見し、山岡智先生の所見を述べていきます。
その点はぜひ次の動画をご覧ください。
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