歯科医療の現場では、従来の外注中心の技工から、デジタル技術を活用した「内製化」への移行が急速に進んでいます。とくにアライナー矯正やナイトガードに用いられるマウスピースは、院内で製作可能な体制が整えば、治療精度の向上とコスト削減を同時に実現できるようになりました
本稿では、院内技工によるアライナー・マウスピースの内製化がもたらす多角的な変化について解説します。
院内技工によるアライナー・マウスピース製作とは?

院内技工によるアライナー・マウスピース製作とは、従来は外注に頼っていた矯正用装置や保護用装置の製作工程を、
歯科医院内で一貫して行う体制を指します。
アライナーとマウスピースの違いを理解したうえで、最新のデジタル技術を活用することで、外注に伴う課題を解消し、治療のスピードと質を両立させることが可能です。
本章では、内製化の基本概念から注目される背景、従来方式の問題点までを整理し、院内技工の全体像を明らかにします。
アライナーとマウスピースの基本と違い
アライナーは歯列矯正のための透明な矯正装置で、段階的に歯を動かす機能があります。
一方、マウスピースは歯ぎしり対策やホワイトニングなど、多用途で用いられる保護的装置です。形状や材質は類似していますが、目的と設計思想が異なります。技工物の内製化を検討するにあたり、この基本的な理解が出発点となります。
なぜ今、院内技工が注目されているのか?
従来は矯正用アライナーの製作を外注に頼るのが主流でしたが、CAD/CAM技術や3Dプリンターの普及により、医院内での製作が現実的になってきています。これにより「納期短縮」「高精度」「患者対応の柔軟性」といった、現代の医療現場が求めるニーズを満たす体制が構築可能になりました。
従来の外注方式における課題点
外注先との連絡や輸送にはタイムラグがあり、再製作や修正対応にも時間がかかります。加えて、技工物に対する医師からの細かなフィードバックが届きにくく、品質の一貫性にもばらつきが生じやすいという課題がありました。院内技工は、これらを根本から解決する手段として注目されています。
歯科医師における院内技工のメリット

院内技工の導入は、歯科医師の診療スタイルそのものを大きく変える可能性を秘めています。外注に頼らず、院内で技工物を製作・調整できることで、治療計画の即時反映や費用構造の最適化が実現し、臨床の自由度が飛躍的に向上します。加えて、物流の不安や納期遅延といった外部リスクを排除できる点も、現場にとっては大きな安心材料です。
本章では、歯科医師が院内技工から得られる具体的な利点を多角的に掘り下げていきます。
歯科医師にとっての3つのメリット
院内技工の最大の強みは、治療計画と技工物製作がシームレスに連携できる点にあります。たとえば、矯正治療中の微調整や設計変更が発生した場合でも、即座に技工物に反映させることができ、治療の質とスピードの両立が可能です。また、技工士が院内に常駐していれば、模型やデータに基づいた直接的なフィードバックが可能となり、微細な調整や設計意図の共有も円滑に行えます。さらに、技工物を外注する際にかかっていたコストが削減されることで、診療単価は据え置いたまま、経営効率や利益率を向上させることができる点も、歯科医師にとって大きなメリットです。
物流トラブルや納期遅延のリスクが消える
宅配便による輸送中の破損や、繁忙期における納期遅延など、外部要因による問題がなくなり、常に計画通りの診療スケジュールを確保できます。
再製作・調整のスピード対応ができる体制づくり
患者の口腔内の変化や使用中の違和感にも、その場で再設計・再出力できる体制は、大きな信頼と安心を患者にもたらします。
歯科衛生士における院内技工のメリット

院内技工は、歯科衛生士の業務にも良い変化をもたらします。
以下では、歯科衛生士における院内技工のメリットを詳しく解説しています。
歯科衛生士のカウンセリング力向上と信頼形成
製作過程を理解した上で説明することで、説得力のあるカウンセリングが可能になります。とくにアライナー治療においては、素材や製作ステップに関する質問も多く、歯科衛生士の知識が信頼形成に直結します。
歯科技工士が臨床に深く関われることで感じるやりがい
診療チームの一員として、患者の治療経過を直接把握できることは、歯科技工士にとっても仕事への誇りとやりがいをもたらします。
患者のモチベーションを維持する「反映の早さ」
「今日スキャンしたデータが、早急に完成する」というスピード感は、治療効果の実感を早め、通院意欲を高める好循環を生むでしょう。
院内技工の導入で治療品質がどう変わるか?

院内で技工物を製作できる体制が整うことで、治療現場の連携や対応力に大きな変化が生まれます。従来よりも細やかな調整や柔軟な対応が可能になり、治療の精度とスピードが一段と向上するのです。
院内技工士とのリアルタイム連携で治療の精度が向上
CADソフト上でのシミュレーションを即時に確認しながら製作を進められることで、治療計画とアウトプットとのズレが最小化されます。特にアライナーの設計では、細かいトルク調整などの意図が直接伝わります。
治療計画の柔軟な変更が可能になる内製環境
予期せぬ歯牙の動きにも迅速に対応できるため、患者にとっても「無駄のない治療体験」が実現します。
業務効率化とコスト削減のインパクト

外注費や送料の削減はもちろん、再製作や連絡調整の手間も省略でき、人的コストも軽減が可能です。院内全体の業務フローが効率化され、限られた人員でも多くの患者に対応可能となります。
院内技工室設置の制度と届出のポイント

院内技工を実現するためには、単に設備を揃えるだけでなく、法令に沿った設置や届出が不可欠です。技工室の開設には所定の手続きが必要であり、レイアウトや設備にも基準が定められています。また、院内技工を紹介する際の広告表現にも注意が必要です。
ここでは、制度面・設備面・広報面における重要なポイントを整理します。
「院内技工室届出」の手続きと法的義務
歯科技工士法に基づき、技工室を設ける場合は所轄保健所に届け出る必要があります。無届けでの運用は法令違反となるため、開設前に所定の手続きを確実に行うことが求められます。
技工室レイアウトと設備条件のチェックポイント
適切な換気や採光、火気の管理、粉塵対策といった基本条件を満たす必要があります。3Dプリンターや切削機の導入時には電力容量や防音・防振対応も重要です。
広告表現の注意点と医療広告ガイドライン
HPなどに技工室の設置を掲載する際は「最先端技工」「実績豊富」「高精度」などの文言は、医療広告ガイドライン上、誇大広告に該当するおそれがあるため、使用を避けましょう。
新たな収益モデルとしての院内技工活用

院内技工の導入は、治療の質や効率を高めるだけでなく、新たな収益のチャンスを生み出す手段にもなります。自費診療の幅を広げるだけでなく、他院との連携によるB2B展開や、技工ノウハウを活かしたコンサルティングなど、多様なビジネスモデルへの展開が可能です。
ここでは、院内技工を活用した収益化の可能性について具体的に見ていきます。
自費診療の幅を広げる内製マウスピース
患者ニーズに応じた柔軟な設計が可能となり、保険適用外の治療でも差別化された価値を提供できます。
他院からの技工物受託によるB2B展開
高品質・短納期を武器に、周辺クリニックからの受注を受けるモデルも実現可能です。業務用ラボとは異なる柔軟性が差別化要素となります。
コンサルティングやセミナーでの副次収益も視野に
院内技工の導入ノウハウを活かした研修やコンサル業務も、将来的な収益の柱となり得ます。
歯科技工士求人の変化と職業的魅力の再評価

院内技工の普及に伴い、歯科技工士の働き方や求人のあり方にも大きな変化が見られるようになりました。特に「院内勤務」を希望する技工士のニーズが高まり、求人市場でもその傾向が顕著になっています。働き方の安定性ややりがいの再発見、診療報酬上の評価といった要素が、技工士という職業の価値を再評価させる追い風となっています。
増加する「院内歯科技工士求人」の背景
求人メディアでも「院内歯科技工士」「デジタル歯科技工対応可能」といったキーワードが急増しています。職場選択の幅も広がりつつあります。
院内勤務の働き方と給料の実態
勤務時間の安定や、患者の声が直接届く点が院内技工の魅力です。給与面でも、安定した月給制を希望する若手歯科技工士にとって魅力的な選択肢となっています。
歯科技工士加算制度と評価体制の変化
院内歯科技工の重要性が見直されるなかで、診療報酬制度上でも評価の強化が議論されつつあることが現状です
ORTC内でおすすめセミナー
1. 柴田暁晴先生による「デジタル歯科技工マスターシリーズ」
内容:院内デジタル技工の導入・教育・実践について、診療の効率化・コスト削減・治療精度向上といったテーマを、柴田先生が一貫して解説するシリーズ です。

2. 「デジタル技工の実際」動画セミナー(柴田暁晴先生)
内容:実践事例として、フルマウス〜インプラントまでのデジタル技工導入メリット・デメリット、機材選定、効率化ポイントなどを約44分で解説

これからの歯科医院経営に求められる視点

デジタル化が進む歯科業界において、これからの医院経営に必要なのは、単なる設備投資だけではなく、チーム全体の連携力や人的資源の活用です。機器を「使いこなす体制」、技術と人を「つなげる仕組み」、そしてそれらを通じた“院内技工という強み”の伝え方が、今後の差別化と持続的成長のカギとなります。
「設備」より「連携」が差別化のカギに
最新機器を導入するだけでなく、それをいかに活用するかが重要なカギになります。歯科医師・歯科衛生士・歯科技工士が日常的に情報共有できる体制こそが、結果に直結します。
デジタル技工と人的資源の活用が鍵
自動化の一方で、最終的な調整や判断は人が行います。デジタルと人的知見の融合こそが今後の成功要因です。
院内技工を“ブランディング”に活かす方法
“自院で製作している”という安心感は、患者への訴求力にもなります。広告表現では誇大にならぬよう注意しながら、事実を丁寧に伝えることが求められます。
Q&A
Q1. 院内技工士のメリットとは?
A. 治療の意図をダイレクトに反映でき、微調整の効率が高い。臨床現場での技術向上も早く、やりがいを感じやすいです。
Q2. 院内技工所を設置する際の法的手続きは?
A. 保健所への技工室届出が必要です。床面積や設備条件なども定めがありますので、事前確認が必須です。
Q3. 院内技工士連携加算とは何ですか?
A. 厚生労働省が定める診療報酬で、技工士が在籍することで一定の加算が認められるケースがあります(詳細は診療報酬点数表を参照)。
Q4. 院内技工士の給料水準は?
A. 地域や規模により異なりますが、平均年収は400万〜500万円程度が目安とされ、院内勤務による安定性が強みです。
Q5. 院内技工士にとってのデメリットはありますか?
A. 臨床側との密なやりとりが求められるため、歯科医師とのコミュニケーション力が必要です。
まとめ
アライナーやマウスピースの内製化は、歯科医院における治療精度の向上とコスト削減を同時に実現し、診療のスピードと柔軟性を飛躍的に高めます。歯科医師・技工士・衛生士の連携により、治療品質や患者満足度が向上するだけでなく、経営効率の改善や新たな収益機会の創出にもつながります。
歯科衛生士ライター:西
【参考URL】
https://nakashima-dentalclinic.jp/2024/03/20/the-role-of-the-in-hospital-laboratory-and-its-benefits/
https://www.matsuyama-dentaloffice.com/clinic/laboratory.html
https://giko4.com/inside-or-outsourcing/
https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/shisetsu/jigyosyo/hokenjyo/minamitama/youshiki/shinryoujotou/shikagikousho
https://dental-web.jp/dental-technician-collaboration/
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