2027年度(令和9年度)から、簡易歯科健診の位置づけと、歯周病検診の対象を5歳ごとに広げる方針が示されています。ただし、全国民への受診義務化や、全国一律の実施条件が確定したことを示すものではありません。[2]
厚生労働省が2026年7月23日に公表した「U.E.N.O.Plan~攻めの予防医療厚生労働省関係施策~」は、歯科保健を重点領域の一つに位置づけています。本記事では、その歯科健診に関する方針と、歯科医院の院長・歯科衛生士が取り組める準備を分けて整理します。[1][6]
この記事を読むうえでの前提
「健診の機会が広がること」と「医院の来院数が増えること」は、分けて考えます。ORTC編集部は、大きな設備投資を先行させるよりも、地域の実施条件、健診後の初診対応、患者説明の共通手順を確認することを提案します。
01 / 年度別の方針
2027年度の簡易歯科健診で、何が変わるのか
公表資料では、希望する人が毎年歯科健診を受けられる環境づくりに向け、自治体と医療保険者の双方で簡易歯科健診を位置づけ、制度化を進める方針が示されています。年度ごとの内容は、次のように整理できます。[3]
2026年度 / 令和8年度
パイロット事業
簡易検査ツールによる口腔スクリーニングに、受診勧奨・歯科保健指導を組み合わせる取組を実施。
2027年度 / 令和9年度
位置づけ・対象拡大
簡易歯科健診を位置づけ、歯周病検診の対象を10歳ごとから5歳ごとへ広げる方針。
2028年度以降 / 令和10年度〜
制度としての普及検討
健康増進法上の制度としての普及を検討。職域では、2028年度以降の実績を踏まえた追加の普及策を検討。
出典:厚生労働省「U.E.N.O.Plan」本体・参考資料。将来年度の項目は、公表資料に記載された方針・検討事項です。[2][3]
「5歳ごとの歯周病検診」と「毎年の簡易歯科健診」は別の整理
厚生労働省の2026年5月の資料では、歯周病検診の対象年齢は20・30・40・50・60・70歳とされています。2027年度からの方針は、この節目年齢の間隔を5歳ごとに広げることです。[4][2]
これに加え、節目年齢にかかわらず、未受診の住民等が希望すれば毎年、簡易検査ツールを活用した歯科健診を受けられるよう、自治体を支援する方針も示されています。従来の歯周病検診を、全国民に対して毎年実施するという説明とは異なります。[3]
職域|保険者の取組と受診勧奨
職域については、予防の取組実績に応じて医療保険者の負担金を加算・減算する制度への簡易歯科健診の追加や、職場での歯科受診勧奨の強化が示されています。保険者への制度的な働きかけであり、歯科医院に新たな診療報酬が自動的に発生するという意味ではありません。[2]
実務では、地域ごとの実施要領を確認します。
対象者、検査方法、費用負担、委託条件、結果の報告方法は、公表方針だけで判断せず、自治体・医療保険者等が示す実施要領や契約内容と照合してください。
02 / 背景となるデータ
歯科健診と歯周病の現状を、数字で確認する
U.E.N.O.Planは、特に就労世代の歯科健診の受診率を課題として挙げています。医院の準備を考える際には、次の数値が「誰を対象に、何を測ったものか」まで確認しておくことが重要です。[2]
表は横にスクロールできます。
調査対象や集計方法が異なるため、上記の割合を単純に比較したり、自院の診療圏の割合として扱ったりすることはできません。
国は「歯科口腔保健の推進に関する基本的事項(第二次)」で、2035年度(令和17年度)までに、過去1年間に歯科検診を受診した者の割合を95%にする目標を掲げています。これは政策上の目標であり、達成済みの受診率ではありません。[3]
03 / 健診から診療へ
簡易スクリーニングは、歯科医師の診断に代わるものではない
簡易検査ツールを活用する目的は、主に歯周病等の疑いを把握し、必要な歯科受診につなげることです。スクリーニング結果だけで診断を確定したり、治療内容を一律に決めたりしないことが前提になります。[2][5]
健診後の来院対応は、次の流れを基本に、患者の状態と希望に応じて組み立てます。
健診結果と来院理由を確認する
結果票、受診勧奨の内容、自覚症状、現在の通院状況を確認します。健診で指摘された項目と、患者が相談したいことを分けて把握します。
必要な診査・検査を行い、診断する
歯科医師が口腔内の状態を評価し、必要な検査と診断に基づいて、治療の必要性や選択肢を説明します。
状態に応じた治療・継続管理につなげる
歯周基本治療や、必要に応じた歯周外科治療などを検討し、再評価を踏まえてその後の対応を選択します。すべての患者が、すぐに定期管理へ移行するわけではありません。
上記は、制度資料と日本歯科医学会「歯周病の治療に関する基本的な考え方」を踏まえた、ORTC編集部による院内フローの整理例です。個別の検査・治療の適応や保険算定を示すものではありません。[2][5]
04 / ORTC編集部の実務提案
医院経営・スタッフ教育・患者説明で、何を整えるか
ここからは、制度上の義務ではなく、歯科医院が受け入れ体制を検討するための実務提案です。
医院経営|来院数だけでなく、受け入れに必要な時間と費用を見る
健診対象の拡大を、そのまま自院の増患・増収予測に置き換えることは避けたいところです。まずは健診経由の来院数と、初診時の診療・説明・事務対応にかかる時間を把握します。
検査機器などの導入を検討する場合は、購入費だけでなく、消耗品、保守、スタッフ研修、結果説明・報告に必要な人件費も含めて試算します。売上が増えることと、利益が残ることは同じではありません。既存の体制で対応できる範囲を確認してから、投資の要否を判断する順序を提案します。
スタッフ教育|受付から診査・説明まで、担当と引き継ぎをそろえる
受付は来院理由と結果票の有無、歯科医師は診査・診断と治療方針、歯科衛生士は歯科医師の指示・診療方針に沿った患者説明やセルフケア支援など、担当する業務を院内で整理します。
共通化するのは、すべての患者に同じ検査や来院間隔を適用することではありません。「何を確認し、誰に引き継ぎ、何を記録するか」という手順です。検査項目や次回来院の時期は、個々の診療上の判断に基づいて説明します。
患者説明|「指摘されたけれど、痛くない」にどう答えるか
健診結果を持参した患者には、疾患や治療の必要性を最初から断定せず、「健診で分かること」と「診療で確認すること」の違いを伝えます。例えば、次のような説明が考えられます。
患者への説明例
健診の結果は、詳しい確認を受けるきっかけになります。この結果だけで病気の程度や治療内容が決まるわけではありません。お口の状態を確認したうえで、必要な対応と、その理由をご説明します。
説明後は、患者が理解できた点と、まだ気になっている点を確認します。不安をあおって通院を促すのではなく、次の診療で何をするのかを具体的に伝えることを重視します。
05 / 院内準備のチェックリスト
今から着手することを、担当者と成果物で決める
以下の時期は、制度上の期限ではなく、院内で進める際の目安です。対外的な告知を増やす前に、受け入れから記録・振り返りまでの流れを整えます。
表は横にスクロールできます。
| 着手の目安 | 確認・実施すること | 主担当 | 残す成果物 |
|---|---|---|---|
| まず確認 | 自治体の歯周病検診の対象年齢、実施要領、委託条件、費用、結果報告の方法を確認する。 | 院長・事務責任者 | 実施条件と確認日をまとめた一覧 |
| 現状把握 | 直近1年の新患について、健診経由の来院数と来院理由を分けて集計する。未記録の項目は今後の記録様式に追加する。 | 受付・事務責任者 | 来院経路・来院理由の集計表 |
| 1〜2か月 | 結果票の確認、診査、説明、次回案内、記録の手順と担当を整理する。 | 院長・歯科衛生士リーダー・受付 | 初診フロー1枚と説明資料 |
| 3か月を目安 | 地域の事業所・医療保険者との接点、連携の相談窓口、健診後の受け入れ余力を確認する。 | 院長・事務責任者 | 連携先と受け入れ条件の一覧 |
| 運用後、毎月 | 来院数、必要な再診の実施状況、説明時間、対応コストを振り返る。 | 院長・歯科衛生士リーダー・事務責任者 | 月次の振り返りと改善事項 |
集計では「健診のきっかけ」と「医院を選んだ経路」を混ぜない
健診で受診を勧められ、知人の紹介で医院を選ぶ患者も考えられます。そのため、「主訴あり/健診経由/紹介」のような一つの分類では、項目が重複してしまいます。
記録項目は、受診のきっかけ(自治体検診、職域健診、自発的な受診など)、医院を知った経路(紹介、検索など)、来院理由・症状(健診の指摘、痛み、出血、定期的な確認希望など)に分けることを提案します。
再来院率を確認する際は、集計対象と観察期間をそろえ、再診が必要と判断された患者を対象にします。不要な受診を増やしたり、全員の定期管理への移行を目標にしたりせず、診療上必要な対応が途切れていないかを確認します。
FAQ / 誤解しやすい点
義務化・名称・費用についてのよくある疑問
Q. 国民皆歯科健診は、2027年度から全員の受診が義務になるのですか。
今回の公表方針は、希望する人が歯科健診を受けられる機会を広げる取組です。国民全員に新たな受診義務が生じるという内容ではありません。なお、学校等の既存の健診制度とは分けて理解する必要があります。[2][4]
Q. 「歯周病検診」と「歯周疾患検診」は違うものですか。
健康増進法に基づく検診は、2026年度(令和8年度)に「歯周疾患検診」から「歯周病検診」へ名称が改められています。本記事は現在の名称を使用しています。過去の資料には旧名称が残る場合があります。[4]
Q. 特定の唾液検査を導入すれば、制度に対応できるのですか。
簡易検査ツールを活用する方針と、個々の製品が実施要件に適合するかどうかは別の確認事項です。この記事や関連動画で紹介する検査について、制度上の採用・適合を保証するものではありません。導入前に、対象となる検査、実施体制、判定・報告方法を実施主体の要領と照合してください。
Q. 健診の費用や、来院後の保険診療はどう確認すればよいですか。
健診事業の費用負担・委託条件と、受診後の診療における算定条件を分けて確認します。前者は自治体・保険者等の実施要領や契約、後者は該当する診療報酬の告示・通知等と照合してください。本記事では、個別の点数や算定可否は扱いません。
まとめ|先に整えるのは、健診後の受け入れ体制
医院が準備する際は、公表された制度の方向性と、地域で実際に適用される条件を分けて確認することが出発点です。そのうえで、健診結果を持参した患者に、誰が、何を確認し、どう説明するかを決めます。
自治体等の実施条件を確認し、初診フローを1枚にまとめ、運用後の数字で見直す。この順序なら、制度の詳細が更新された際にも、必要な部分を修正しながら準備を進められます。
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参考情報・出典
- 厚生労働省「U.E.N.O.Plan~攻めの予防医療厚生労働省関係施策~」公表資料2026年7月23日公表。計画の位置づけと重点領域。
- 厚生労働省「U.E.N.O.Plan」本体(PDF)7〜9ページ「歯科保健」。受診状況、年度別の施策、自治体・職域の取組。
- 厚生労働省「U.E.N.O.Plan」参考資料(PDF)8ページ「歯科保健」。簡易歯科健診の位置づけと実施方法のイメージ。
- 厚生労働省「歯科健診を取り巻く現状と検討会の今後の進め方について」(PDF)2026年5月11日、第1回歯科健診等のあり方等に関する検討会・資料2。2ページの歯周ポケットの指標、15ページの対象年齢・名称変更を参照。
- 日本歯科医学会「歯周病の治療に関する基本的な考え方」(PDF)2026年3月。検査・診断、治療計画、再評価に基づく歯周病治療の考え方。
- 厚生労働省「U.E.N.O.Plan」概要(PDF)重点領域と歯科保健施策の全体像。
- 厚生労働省「歯科口腔保健関連情報」歯科口腔保健施策・関連資料の確認先。
情報確認日:2026年9月22日。本記事は、上記の公表資料に基づく制度解説と、ORTC編集部による医院運用の提案です。実施方法や条件の更新は、厚生労働省および実施主体である自治体・医療保険者等の資料でご確認ください。
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