歯科経営
歯科医院経営において、診療報酬の最適化は欠かせないテーマです。特に近年注目されているのが「管理栄養士」の活用です。歯科治療の現場では、口腔機能と全身の栄養状態は密接に関係しており、患者の健康支援のために栄養指導を行うニーズが高まっています。さらに、一定の要件を満たすことで診療報酬における加算が可能となり、経営的にも導入のメリットがあります。
本記事では、歯科医院における管理栄養士導入の経営的価値を明確化し、診療報酬加算制度を生かした収益向上と患者サービスの両立を実現するための具体的なヒントを提示します。

メリット
①診療報酬加算による収益増
「管理栄養士配置加算」などを算定することで、診療報酬を通じた安定的な収益増加が期待できます。
(例)在宅療養患者や要介護高齢者への栄養管理が必要な場合、算定対象が広がります。
②患者満足度・信頼度向上
栄養と口腔機能を一体的に支援できることで、患者やその家族に「通う価値のある歯科医院」と認識されやすくなります。
③競合との差別化
管理栄養士の常勤または連携導入は、まだ一部の歯科医院に限られています。地域での競争優位性を確保できます。
④医科歯科連携の推進
医科側からの栄養指導ニーズに対応できるため、来院や訪問診療チームとの連携強化につながります。
コスト
・人件費:常勤雇用の場合は年間300〜500万円程度が目安。
・教育・研修費用:栄養指導や歯科特有の知識習得に必要。
・業務調整コスト:導入初期には、既存スタッフとの役割分担や業務フロー整備が必要。
→連携(非常勤や外部委託)から始めるという選択肢もあり、初期コストを抑えて効果を検証することが可能です。
 
代表的な算定例
・在宅患者訪問口腔衛生指導管理栄養士加算:訪問歯科診療において、管理栄養士が栄養指導を行う場合に算定可能。
・外来での栄養食事指導:糖尿病や接触嚥下障害のある患者を対象に、栄養指導料を算定できる場合があります。
要件の一例
・管理栄養士が院内に配置されている、または提携体制が整っていること。
・医師や歯科医師からの指示に基づいて栄養指導を実施すること。
・指導記録を診療録に残すこと。
算定の実際
・1回あたり数百点規模の加算が可能。
・継続的な指導を行うことで、患者ケアと収益が同時に向上します。
①導線設計
初診時の問診票に「食生活・栄養状態」に関する質問を追加し、管理栄養士への紹介機会をつくる。
②チーム医療の仕組み化
歯科医師が診断し、歯科衛生士が口腔ケアを実施、管理栄養士が食事面を支援する「トライアングル体制」を構築。
③患者へのアプローチ例
「噛む力が弱くなっていませんか?→食事面の工夫が必要です」
「むし歯リスクの高いお子さんには、砂糖摂取量が見える化と栄養指導を組み合わせます」
④収益モデルのシミュレーション
例:管理栄養士が週3回勤務→栄養指導を月50件実施→年間で数百万円の規模の加算収益を確保可能。
・高齢者歯科:誤嚥性肺炎予防や低栄養対策に有効。
・小児歯科:むし歯予防に加えて、食育・噛む習慣づくりを提供可能。
・生活習慣病対策:糖尿病・肥満の患者に口腔と食事の両面からアプローチできる。
→こうしたサービスは「単なる歯科治療の場」を超えて、「生活習慣改善の拠点」としての歯科医院のポジション強化に直結します。
歯科医院における管理栄養士の導入は、単なる人材配置ではなく「経営戦略」の一環です。経営面・現場面・患者満足度の3方向で大きな成果が得られます。診療報酬加算を通じた収益増加に加え、患者満足度の向上、地域での競争優位性確保、そして医科歯科連携の推進にも寄与します。まずは外部提携や非常勤から試験的に導入し、実際の効果を見ながら体制を整備することが成功ポイントです。
経営面では、栄養指導や加算による直接的な収益効果に加え、「紹介・口コミの増加」による新規患者獲得という二次的効果が得られます。特に、「子どもの食習慣を整えたい」「高齢の家族の栄養状態を見直したい」といった生活支援ニーズを持つ家庭にとって、歯科医院で栄養の相談ができるということ自体が強い訴求になります。結果として、単なる治療目的ではなく、通う価値がある歯科医院として地域に認知され、リピート率も上がっています。
現場面では、管理栄養士が入ることで歯科衛生士や受付スタッフの意識も変化します。たとえば「むし歯指導の延長でおやつの摂り方まで提案する」「口腔育成のために噛む練習と食材選びをリンクさせる」など、診療全体に一貫性が生まれます。結果として患者対応の質が上がり、チームとしての一体感も強まります。そして、何より患者価値の向上です。私が関わった小児歯科の予防プログラムでも、栄養士による食生活指導が組み込まれており、親子向けに「おやつの砂糖が見える化ワークショップ」を行ったところ、健康意識の高い親子から非常に喜ばれました。「子どもが自らお菓子の量を考えるようになった」「歯磨きの大切さを自分ごととして理解できた」という声が多く寄せられました。栄養指導を加えることで、予防歯科の価値が一段と高まることを実感しています。栄養士の専門的アプローチを取り入れることで、学びと体験が結びつき、歯科医院が家庭の健康教育の場として機能したのです。これから歯科経営に求められるのは、治療中心から予防・支援中心への転換です。その中心に「栄養」という切り口を据えることで、医科歯科連携を強化し、地域包括ケアの中で存在感を高めることができます。管理栄養士の導入は、単なる加算対応ではなく、歯科医院の未来戦略そのものなのです。
Q1.管理栄養士を常勤で雇用するのは難しいのですが...
A.外部の管理栄養士と連携する方法があります。まずは非常勤導入からスタートし、効果を見ながら常勤化を検討すると良いでしょう。
Q2.加算が取れるケースと取れないケースの違いは?
A.医師・歯科医師の指示に基づき、管理栄養士が栄養指導を行い、その記録が診療録に残されていることが必要です。対象疾患や条件を満たさない場合は算定できません。
Q3.歯科衛生士と管理栄養士の役割は重ならないですか?
A.歯科衛生士は口腔衛生のプロ、管理栄養士は栄養管理のプロです。連携することでむしろ患者に包括的な価値を提供できます。「ダブルライセンス人材」の育成も注目されています。
Q4.導入後に患者へどう提案すればいいですか?
A.「食事と歯の健康はつながっています」と伝え、具体的に食生活チェックや栄養相談をオプションとして案内します。特に高齢者や小児の保護者は高い関心を持っています。
Q5.管理栄養士がどのタイミングで患者対応に入るのが理想ですか?
A.初診時の問診や定期検診のタイミングが最適です。食習慣や体重変化などで問診票を拾い、歯科衛生士から管理栄養士へスムーズに引き継ぐ流れを設計しましょう。
歯科衛生士ライター大久保

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