歯科イノベーションロードマップの概要とこれからの日本

コラム

2040年には、団塊ジュニア世代も65歳以上の高齢者となり、同時に現役世代(15歳から64歳)は減少傾向にあります。これにより、1人の高齢者を1.5人の現役世代で支える必要があると推計されています。この現象は、我が国の社会保障制度の維持が困難になる可能性を意味し、医療や年金の安定的な提供に大きな影響を及ぼすことが懸念されています。さらに、都市の空洞化や社会インフラの老朽化も問題とされています。

 

では、2040年のネガティブな予測に歯止めを掛け、明るい未来への方向転換を図るために、歯科はどのような取り組みをすべきでしょうか。日本歯科医学会は、「健康寿命の延伸に貢献する歯科イノベーションロードマップ」を作成し、社会における歯科の存在感を示すことを提唱しました。これに基づいて、学会では以下の4つの研究テーマを選定し、7年ごとの短期目標を設定し、歯科基礎医学の立場から歯科イノベーションの推進に貢献することとしました。

 

参考:歯科基礎医学会

 

1.歯科基礎医学会が目指す歯科イノベーションのテーマ

1. 口腔・全身の健康増進を目指す口腔マイクロバイオームの解明

2. 健康長寿社会を目指す口腔機能低下の予防と回復法の確立

3. 早期口腔癌の発生・進展メカニズムと診断・治療法の確立

4. 新たな再生医療・バイオマテリアルの開発

 

2.歯科イノベーションロードマップの展開の流れ

ⅰ)歯科基礎医学会では上記の4つのテーマを7年ごとのイノベーションロードマップに沿って推進・確立することにより、「口腔の健康が全身の健康につながる」ことを社会に発信します。

 

ⅱ)先進的な歯科医療機器や治療法の発展と共に、国民の口腔の健康管理への意識が向上し、歯科での定期健診や予防治療の機会が増えることで、健康寿命の延伸につなげます。

 

ⅲ)その結果、健康な高齢者人口が増加し、2040年に予想される医療や社会保障制度への負担が軽減され、持続可能な社会保障の提供を目指します。

 

3.歯科イノベーションテーマの社会への発信

 

歯科基礎医学会では、第61回学術大会(2019年)から、毎年、各テーマについてシンポジウムを開催しています。これらの成果の概要を歯科基礎医学会ホームページへ掲載し、幅広い情報発信と活動のアピールを推進していきます。

 

 

4.歯科イノベーションテーマの社会への発信

 

ロードマップの具体的な内容について

1. AIを活用した診断・予防技術の進化

AI(人工知能)は、歯科医療において診断や予防に大きな役割を果たすことが期待されます。AIは従来の診断技術を補完し、より正確で迅速な診断を可能にするだけでなく、予防の観点からも活用されるでしょう。AIによる口腔内の状態のモニタリングや、リスクの高い患者の特定により、予防治療の効果が向上すると考えられます。

 

2. バイオマテリアルの進化

バイオマテリアルの進化により、歯科治療の質が向上することが期待されます。新たなバイオマテリアルは、機能性や耐久性が優れており、自然な感じや見た目を実現します。特に、インプラント治療の成功率の向上や患者の快適な治療体験の提供につながると期待されています。

 

3. 3Dプリンティング技術の普及

歯科医療において、3Dプリンティング技術の普及が予想されています。これにより、治療のカスタマイズ化や高度な審美治療・修復治療の実現が可能になります。また、自然な見た目と機能を持つ3Dプリントされた人工歯により、患者の自信を取り戻すきっかけにもなると考えられています。

 

4. デジタル技術の進展

デジタル技術の進歩により、歯科医療がより効率的かつ正確になることが期待されます。デジタル画像診断技術により、従来よりも詳細で正確な情報が提供できます。また、デジタルシミュレーションによって治療計画や予測が行われ、患者の不安を軽減し、治療の効果を最大化するでしょう。

 

5. バーチャルリアリティと予防教育

バーチャルリアリティ(VR)の技術を活用した予防教育の普及が予想されます。VRを使用して口腔内の状態を体験することで、患者自身が歯のケア方法や予防法を学ぶことが可能になります。また、VRを使って歯科医療の症例をシミュレーションすることで、学生や新人医師の教育にも役立つでしょう。

 

6. テレデンタルケアの普及

テレデンタルケアは、オンライン上での歯科相談や遠隔検診などを指します。2040年までには、画像やビデオを活用したテレデンタルケアが一般的になると考えられます。これによって、地理的な制約を超えて歯科医療へのアクセスを向上させることができるでしょう。

 

まとめと今から私たちができること

医科と歯科の大きな違いとして、歯科は緊急性がないと考えられる患者さんもたくさんいます。

イノベーションマップの第一期の目標として、全身疾患と口腔内の関連性の解明を目的と掲げられています。

定期来院される患者さんに全身と口腔の関連性を伝え、リコールの大切さを感じてもらうところから初めて見るのは良いのではないでしょうか。

 

歯科衛生士ライター 西山

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