「抗微生物薬適正使用の手引き第4版」に歯科編が新設|歯性感染症・抜歯時の抗菌薬使用を院内で標準化する

歯科経営, 歯科医

2026年1月、厚生労働省が薬剤耐性(AMR)対策の一環として公表した「抗微生物薬適正使用の手引き第4版」に、初めて歯科編と歯科編要約版が新設されました。医科領域では以前から浸透してきた「抗菌薬の適正使用」という視点が、歯科診療でも国の手引きという形で明文化されたことになります。

歯性感染症の治療方針や抜歯時の抗菌薬使用について、院内での考え方をあらためて整理しておきたいテーマです。

この記事で整理すること

  • 「抗微生物薬適正使用の手引き第4版」歯科編が新設された背景と位置づけ
  • 歯性感染症治療における抗菌薬使用の基本的な考え方
  • 抜歯時の予防的抗菌薬投与、感染性心内膜炎予防に関する整理
  • 院長が院内でどのように運用ルールを標準化すべきか
  • スタッフ教育・患者説明への活かし方

背景

厚生労働省は、薬剤耐性(AMR)対策アクションプランに基づき、医療従事者向けに抗菌薬の適正使用を促す「抗微生物薬適正使用の手引き」を公表してきました。

2025年9月19日の作業部会資料として歯科編(案)が示され、同年10月8日の薬剤耐性(AMR)に関する小委員会で了承、2026年1月16日に第四版として正式に公表されています。

今回の改訂で新たに「歯科編」「歯科編要約版」が加わったことは、歯科診療における抗菌薬使用の適正化を国として本格的に後押しする動きと位置づけられます(出典:厚生労働省作業部会資料、国立健康危機管理研究機構)。

背景には、日本の外来診療における抗菌薬使用が、WHOが推奨する「Access(優先して使うべき)」区分の薬剤よりも「Watch(注意して使うべき)」区分の広域抗菌薬に偏っているという課題があります。

手引きの作業部会資料によれば、2023年時点の国内の使用実態はAccess薬23.2%、Watch薬75.7%とされ、WHOが目標とするAccess薬60%以上を大きく下回っています。歯科は院内処方の機会が多い診療科であり、この改善に一定の役割を担うことになります。

院長が押さえるべきポイント

01 局所処置を優先する

第一に、歯性感染症治療の基本は「感染根管治療、膿瘍切開、抜歯等の局所処置」であり、抗菌薬はあくまで局所処置を補うものという位置づけです。作業部会資料では、疼痛のみで腫脹を伴わない根尖性歯周炎や、ドライソケットに対しては経口抗菌薬は不要とされています。

「痛みを訴える患者に反射的に抗菌薬を処方する」という対応を、院内で見直す契機になります。

02 薬剤の選択と効果判定

第二に、抗菌薬を使用する場合の第一選択薬と用量の考え方です。

資料では、歯周組織炎や歯冠周囲炎に対する第一選択としてアモキシシリン(250〜500mgを1日3〜4回)、全身症状を伴う場合はアモキシシリン500mgを1日3回、効果が不十分な場合はクラブラン酸/アモキシシリン配合剤への変更が挙げられています。

一方、歯科で処方されることがある第3世代セファロスポリン系は、グラム陰性菌まで標的とする広域抗菌薬であり、薬剤耐性菌の増加を助長しやすいことから推奨されていません。効果判定の目安は3〜7日以内、改善がなければ薬剤変更または中止、炎症症状が消失してから24時間程度で投与終了という目安も示されています。

03 抜歯時の予防的な投与

第三に、抜歯時の予防的抗菌薬投与についての整理です。健常な患者の単純抜歯では、予防的な抗菌薬投与は推奨されていません。

下顎埋伏智歯の抜歯など侵襲の大きい処置では、術前1時間前にアモキシシリン250〜500mgを単回投与することが第一選択とされ、骨削除を伴うなど侵襲が大きい場合に限り、術後48時間程度まで250mgを1日3回追加することが検討されるとされています(英国のガイドラインでは、そもそも予防的抗菌薬投与自体を推奨していない点も紹介されています)。

また、人工弁置換や感染性心内膜炎の既往、複雑性チアノーゼ性先天性心疾患など高リスク患者に対する観血処置では、術前1時間前にアモキシシリン2gを単回投与し、ペニシリンアレルギーがある場合はクリンダマイシンやセファレキシンを代替薬として用いることが国内外で推奨されています。

04 アレルギー・腎機能への配慮

第四に、患者が申告する「ペニシリンアレルギー」が必ずしも真のアレルギーとは限らない点です。下痢などの非アレルギー性の副作用と混同されているケースもあるとされており、アレルギーの内容を評価できない場合は、当該薬剤を避けるという慎重な対応が基本になります。

あわせて、腎機能が低下している患者やアモキシシリンの供給が不安定な時期には、投与量の調整や代替薬(セファレキシン、クリンダマイシンなど)の検討も必要になります。

医院経営、スタッフ教育、患者説明への影響

医院経営への影響

経営面では、抗菌薬適正使用への取り組みは直接的な増収要素ではありませんが、地域医療における信頼性や、医科歯科連携における評価にプラスに働く要素です。感染対策や医療安全への取り組み姿勢は、採用活動や医院のブランディングにおいても説明材料になり得ます。

スタッフ教育への活用

スタッフ教育の面では、抗菌薬の使用方針は歯科医師個人の判断に委ねられがちな領域です。

院内で「どのような場合に抗菌薬を使用し、どのような場合は経過観察・局所処置で対応するか」という考え方を歯科医師間ですり合わせ、歯科衛生士・歯科助手にも基本的な考え方を共有しておくことで、患者からの問い合わせにも一貫した説明ができるようになります。

患者に伝わる説明

患者説明の面では、「抗菌薬を出さない」という判断そのものが患者の不安につながることがあります。局所処置を優先する理由や、抗菌薬を安易に使わないことが患者自身の将来的な薬剤耐性リスクを減らすことにつながる、という点を分かりやすく伝える説明力が求められます。

過度に不安を煽る必要はありませんが、「なぜこの治療方針なのか」を丁寧に説明することが、自費診療も含めた治療への納得感につながります。

具体的な対応策

STEP 1
院内の使用方針を文書化する

まず、院内の歯科医師間で、歯性感染症に対する抗菌薬使用の基本方針(どのような症状であれば経過観察・局所処置を優先するか、第一選択薬は何か)を一度すり合わせ、簡単な院内マニュアルとして文書化します。

STEP 2
予防投与の基準をスタッフで共有する

次に、抜歯や外科処置における予防的抗菌薬投与の基準(単純抜歯では原則不要、侵襲の大きい処置や高リスク患者では単回投与を基本とする等)を、担当する歯科医師だけでなく歯科衛生士・歯科助手も含めて共有し、術前説明や問診票の見直しに反映させます。

STEP 3
アレルギーの確認項目を見直す

あわせて、患者からの「ペニシリンアレルギー」の申告について、具体的な症状(発疹・呼吸困難等)まで確認するヒアリング項目を問診票に追加し、非アレルギー性の副作用との混同を防ぐ体制を整えます。

STEP 4
正式版の手引きを確認する

最後に、手引きの内容は「案」の段階から確定版に至るまで細部が更新される可能性があるため、実際の処方にあたっては、厚生労働省および国立健康危機管理研究機構(JIHS)が公開する歯科編・歯科編要約版の最新版本文を必ず確認したうえで、院内の運用ルールに反映することをお勧めします。

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まとめ

2026年1月に公表された「抗微生物薬適正使用の手引き第4版」で歯科編が新設されたことは、歯科診療における抗菌薬の使い方が、個々の歯科医師の経験則だけでなく、国としての標準的な考え方に照らして問われる時代に入ったことを示しています。

歯性感染症治療における局所処置優先の考え方、抜歯時の予防投与の基準、患者への説明の仕方まで含めて、院内での運用ルールを一度棚卸ししておくことが、患者の安全と医院の信頼性の両方につながります。

ORTCでは、こうした臨床の基本方針を医院内でどう標準化し、スタッフ間で共有していくかという実践面についても、動画コンテンツを通じて継続的に学べる環境を提供しています。

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参考情報、出典

  1. 厚生労働省 第9回抗微生物薬適正使用(AMS)等に関する作業部会 資料5「抗微生物薬適正使用の手引き第四版(案)歯科編」(2025年9月19日)
    出典を確認する →
  2. 国立健康危機管理研究機構(JIHS)「抗微生物薬適正使用の手引き 第四版を取りまとめ、新たに歯科編、歯科編要約版を掲出」(2026年1月16日)
    出典を確認する →
  3. WhiteCross「【歯科編が新設】『抗微生物薬適正使用の手引き 第四版』が了承 厚生労働省」
    出典を確認する →
  4. 厚生労働省・国立健康危機管理研究機構「かしこく治して、明日につなぐ~抗菌薬を上手に使ってAMR対策~」医療従事者向けガイドライン・資料ページ 
    出典を確認する →

※本記事は2025年9月時点の作業部会資料等をもとに整理したものです。確定版の歯科編・歯科編要約版の本文とは細部が異なる可能性があるため、実際の処方・院内ルールの策定にあたっては、厚生労働省・国立健康危機管理研究機構が公開する最新の正式版を必ずご確認ください。

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