歯科分野を含む、医療分野におけるAI(人工知能)の活用が急速に進んでいます。
2024年の医療AI市場規模は約450億ドルに達し、年平均成長率は37%を超えています。
この大きな変化の波は、歯科医療にも確実に到達しています。
歯科領域では、画像診断における読影のばらつきや複雑な治療計画の立案、患者様への分かりやすい説明など、従来から多くの課題を抱えてきました。
特に、レントゲン画像での微細なう蝕や根尖病変の見落とし、経験年数による診断精度の差などは、多くの歯科医師が日常的に感じている課題です。
AIは、これらの課題を解決する革新的なツールとして期待されています。
人間の視覚では捉えきれない微細な変化を検出し、大量のデータから最適な治療計画を提案し、患者様により分かりやすい説明を可能にします。
本記事では、歯科医療におけるAI活用の最前線と、私たちの歯科診療にもたらす変化について詳しく解説します。
変化の波に乗り遅れないために、今知っておくべき情報をお伝えします。
【具体例】AIはここまで来ている!歯科診療における活用事例5選

AI歯科診療は以下の点で活用されることが目立つようになりました。
1.画像診断支援
2.矯正歯科での活用
3.インプラント治療支援
4.歯科技工(CAD/CAM)
5.患者コミュニケーション
それぞれ詳しく解説していきます。
1. 画像診断支援:見落としを防ぐ「第二の目」
AI画像診断支援は、現在最も実用化が進んでいる分野です。
レントゲン写真やCT画像から、う蝕、根尖病変、歯周病による骨欠損などを自動で検出し、疑わしい部位をハイライト表示します。
DiagnocatやPearl AIなどのソフトウェアは、すでに多くの歯科医院で実用化されており、診断精度の向上と見落とし防止に大きく貢献しています。
特に、初期う蝕の検出率は従来の目視診断と比較して15〜20%向上したという報告もあります。
重要なのは、AIが医師の診断を「代替」するのではなく、「支援」することです。
最終的な診断は歯科医師が行いますが、AIが提供する客観的な情報により、より確実で均質な診断が可能になります。
2. 矯正歯科での活用:分析時間を大幅短縮
セファロ分析は矯正治療の基本ですが、手作業では時間がかかり、計測点の設定にも個人差が生じます。
AIを活用したセファロ分析システムは、わずか数秒で正確な分析結果を提供し、従来30分程度かかっていた作業を大幅に短縮します。
また、治療シミュレーションの精度も向上し、患者への説明がより具体的で分かりやすくなりました。
治療前後の予測画像を高精度で作成することで、患者様の治療に対する理解と満足度が大きく向上しています。
3. インプラント治療支援:安全性と成功率の向上
インプラント治療では、埋入位置の決定が治療成功の鍵となります。
AI支援システムは、CT画像から骨量・骨質を自動解析し、最適な埋入位置を提案します。
下顎管や上顎洞などの重要な解剖学的構造との距離も自動計算され、安全性の向上に大きく貢献しています。
また、サージカルガイドの設計精度も向上し、計画通りの手術実行率が95%以上という高い成績を示しています。
4. 歯科技工(CAD/CAM):品質の標準化と効率化
CAD/CAMシステムにAIを組み込むことで、クラウンやブリッジの設計が自動化され、適合精度の向上と製作時間の短縮を実現しています。
従来は技工士の経験と技術に依存していた部分が標準化され、安定した品質の技工物を効率的に製作できるようになりました。
また、対合歯や隣接歯との関係も自動で考慮され、より機能的で審美的な技工物の製作が可能です。
5. 患者コミュニケーション:視覚的で分かりやすい説明
口腔内スキャナーで取得したデータをAIが解析し、う蝕リスクや歯周病の進行リスクを色分けして表示するシステムが普及しています。
患者様は自分の口腔内の状態を視覚的に理解でき、治療の必要性に対する納得感が大幅に向上します。
また、治療後の予測画像も高精度で作成できるため、インフォームドコンセントの質が飛躍的に改善されています。
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AI導入がもたらす3つのメリット

AI歯科診療を導入することによって、3つのメリットが存在します。
ここでは、歯科医師、歯科衛生士・歯科助手、患者様の3つの視点からお話しします。
歯科医師へのメリット:診断能力の拡張と時間創出
AIは歯科医師の診断能力を拡張し、「第二の目」として機能します。
微細な変化や見落としやすい病変を検出することで、診断精度が向上し、医療事故のリスクも軽減されます。
また、ルーチンワークの自動化により、診断や治療計画立案にかかる時間が大幅に短縮されます。
これにより、患者様との対話や治療説明により多くの時間を割くことができ、医師本来の専門性を発揮できる環境が整います。
精神的な負担も軽減されます。
AIによるダブルチェック機能により、見落としに対する不安が軽減され、より自信を持って診療に臨むことができます。
歯科衛生士・助手へのメリット:専門性の発揮と業務効率化
AIは歯科衛生士や歯科助手の専門性をより際立たせます。
カルテ入力の補助や予約管理の自動化により、定型業務に費やす時間が削減され、患者指導や予防処置など、本来の専門業務に集中できます。
また、AIが提供する客観的なデータにより、患者様への説明がより説得力のあるものになります。
歯周病リスクの可視化や清掃指導の効果を数値で示すことで、患者の予防意識向上に大きく貢献できます。
新しい技術の習得を通じて、スキルアップの機会も生まれます。
AIツールを使いこなすことで、歯科医療チームの中でより重要な役割を担えるようになります。
患者へのメリット:質の高い医療と納得感の向上
患者様にとって最大のメリットは、診断精度の向上による質の高い医療の提供です。
AIによる客観的な分析により、見落としのリスクが軽減され、より確実な診断と治療を受けることができます。
また、視覚的で分かりやすい説明により、自身の口腔内状態や治療の必要性をより深く理解できます。
治療前後の予測画像や数値データにより、治療効果を事前に把握でき、治療に対する不安が軽減されます。
診断や治療計画立案の時間短縮により、待ち時間の削減も期待できます。
効率的な診療により、患者の負担軽減と満足度向上が実現されます。
AI時代の歯科医院が直面する課題と未来展望

今後、AI歯科診療が進んでくると歯科医院が直結する課題は初期導入に関わるコストや労力になります。
長い目で見れば回収できるコスト費用も、初期稼働となると足踏みしてしまう歯科経営者の方もいるでしょう。
ぜひ、早い段階で以下の内容を頭に入れておきましょう。知識として持っておけば、計画的に行動に移せます。
AI歯科診療の導入前に知っておくべきこと
AI導入には課題も存在します。
まず、初期導入コストと継続的な運用費用です。高性能なAIシステムは数百万円の投資が必要で、月額利用料も発生します。中小規模の歯科医院では、費用対効果の慎重な検討が必要です。
データセキュリティとプライバシー保護も重要な課題です。
患者の医療情報をクラウドで処理する場合、情報漏洩のリスクを最小限に抑える対策が不可欠です。
また、AIの判断に依存しすぎることなく、最終的な診断責任は歯科医師が負うという原則を維持することが重要になります。
スタッフの学習コストも考慮する必要があります。
新しいシステムの習得には時間がかかり、一時的に診療効率が低下する可能性があります。
また、薬事承認や保険適用などの規制面での課題も存在します。
AI歯科診療がもたらす明るい未来
しかし、これらの課題を乗り越えた先には、明るい未来が待っています。
予防歯科分野では、AIが個人の生活習慣や遺伝的要因を分析し、将来の疾患リスクを予測する技術が開発されています。
患者様一人ひとりに最適化された予防プログラムの提供により、真の予防医療が実現されるでしょう。
個別化医療も大きく進展します。
患者の体質や病歴、治療反応などを総合的に分析し、最適な治療法を提案するシステムが実用化されつつあります。
また、医院経営の最適化も進み、来院予測や在庫管理、スタッフ配置の最適化により、効率的な医院運営が可能です。
遠隔診療との連携も期待されており、AIが口腔内画像を解析し緊急度を判定することで、適切なタイミングでの受診勧奨や経過観察が可能になります。
これにより、地域医療の質向上にも貢献できるでしょう。
さらに、AIの発展により歯科医療のグローバル標準化が進み、世界中どこでも同じレベルの医療を受けられる環境が整うことが期待されます。
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まとめ
AIによる歯科医療の変革は、もはや避けて通れない大きな流れです。
画像診断支援から治療計画立案、患者様とのコミュニケーションまで、AIはすでに多くの分野で実用化され、確実に臨床現場を変えています。
重要なのは、AIを脅威としてではなく、私たちの専門性を高めるパートナーとして捉えることです。
AIが得意とする客観的な分析と、人間が持つ経験や直感、患者との信頼関係を組み合わせることで、これまで以上に質の高い医療を提供できるのです。
変化の速度は予想以上に速く、今から情報収集と学習を始めることが、数年後の臨床と経営に大きな差を生むでしょう。
同僚に遅れをとらないためにも、そして何より患者により良い医療を提供するためにも、今こそAIとの向き合い方を真剣に考える時です。
変化を学び、未来を創造する――。
それが私たち歯科医療従事者に求められている姿勢です。
AI時代の歯科医療の担い手として、ともに歩んでいきましょう。
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参考文献
Frontiers | Artificial intelligence in dentistry—A review
Artificial intelligence in dentistry: Exploring emerging applications and future prospects - ScienceDirect
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Q&A
Q1:AI導入のコストが心配です。中小規模の歯科医院でも導入できますか?
A1: 確かにAI導入には初期費用がかかりますが、すべてが高額な投資を必要とするわけではありません。
現在、月額数万円から利用できるクラウド型のAI画像診断支援ソフトも登場しており、段階的な導入が可能です。
まずは診断支援ソフトから始めて、効果を実感してから他の分野に拡大するという戦略がおすすめです。
また、見落とし防止による医療事故リスクの軽減や、診断時間の短縮による患者回転率の向上を考慮すると、中長期的には十分な費用対効果が期待できます。
重要なのは、自院の課題や目標を明確にして、最も効果的な分野から導入を検討することです。
Q2:AIが発達すると、歯科医師の仕事がなくなってしまうのではないでしょうか?
A2: AIは歯科医師の仕事を「奪う」のではなく、「拡張する」技術です。
AIは客観的なデータ分析や反復作業は得意ですが、患者との信頼関係構築、複雑な治療計画の最終判断、患者の不安に寄り添うコミュニケーションなど、人間の専門性が必要な分野は多数あります。
実際に、AI導入により診断や事務作業の時間が短縮されることで、患者との対話や治療説明により多くの時間を割けるようになり、むしろ歯科医師本来の専門性をより発揮できる環境が整います。
AIを「パートナー」として活用することで、これまで以上に質の高い医療を提供できるようになるのです。
Q3:AI診断の結果を患者にどのように説明すればよいでしょうか?
A3:AI診断結果の患者説明では、①AIは分析支援ツールで最終診断は医師が行うことを明確に伝える、②ハイライト画像や数値データを用いた視覚的説明で理解を促進する、③見落とし防止のダブルチェック機能として安全性向上をアピールする、の3点が重要です。
最新技術活用による診療の質向上を患者に安心感とともに伝えることで、満足度も高まります。
歯科専門ライター 萩原すう
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