講師紹介 伊藤高史

- 伊藤高史
- いとう歯科医院 院長
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義歯修理のスキルアップを目指す一般歯科医師
義歯破折は日常臨床で頻繁に遭遇するトラブルの一つです。
特に、補強線を用いた修理方法は、義歯の強度を高め、再破折のリスクを低減させる有効な手段となります。
この動画では、破折状態の確認から補強線埋入、レジン充填、研磨に至るまでの一連の流れを具体的に示しており、チェアサイドでの即日修理技術の習得や、既存の手技の改善・確認に役立ちます。明日からの臨床にすぐに活かせる実践的な知識を得たい先生におすすめです。
歯科医師との連携を深めたい歯科技工士
歯科医師がチェアサイドで行う修理のプロセスや判断基準を理解することは、歯科技工士にとっても重要です。
動画で解説される補強線の種類や太さの選択、埋入位置の決定、レジン充填時の注意点などは、ラボサイドでの修理や新製義歯の設計にも応用できる知識です。
歯科医師がどのような点に留意して修理を行っているかを知ることで、より円滑な連携や的確な技工操作につながり、質の高い補綴物製作に貢献できます。
訪問歯科診療・地域包括ケアに関わる歯科医療従事者
来院が困難な患者さんにとって、義歯の破損は食事やコミュニケーションに直結する深刻な問題です。
この動画で紹介されている症例のように、視覚障がいなどにより通院が難しい患者さんに対して、1回の訪問で義歯修理を完結させる技術は非常に価値があります。
限られた設備や時間の中で、いかに効率的かつ確実に修理を行うか、その具体的な手順と工夫を学べます。
訪問診療における対応力の向上や、地域包括ケアシステムにおける多職種連携の場で役立つ知見が得られます。
高齢者歯科を専門とする、または関心のある歯科医師・歯科衛生士
加齢に伴い、義歯の使用率は増加し、それに伴う破損トラブルも増えます。
高齢者は身体的な制約や全身疾患を抱えているケースも多く、迅速な対応が求められます。
本動画で解説される補強線を用いた修理法は、義歯の耐久性を向上させ、高齢者のQOL維持に貢献します。
また、患者さんの背景(緑内障による視覚障害)を考慮した治療計画の立案プロセスは、高齢者特有の複合的な問題に対応する上でのヒントとなります。
高齢者歯科における実践的なスキルを磨きたい方におすすめです。
臨床経験の浅い若手歯科医師・研修医
義歯修理は基本的な手技でありながら、確実に行うためには経験と知識が必要です。
この動画では、破折義歯の診査から始まり、仮固定、模型製作、補強線の設置、レジンワーク、研磨まで、一連のステップが視覚的にわかりやすく解説されています。
特に、補強線の効果的な使用法や、メタルボンドや咬合干渉がある場合の対応など、臨床で遭遇しうる具体的な問題点とその対処法を学べます。
基礎的な知識の再確認とともに、臨床応用力を高めるための良い教材となります。
【動画紹介】破折義歯を救う!補強線を用いた即日修理テクニック – 来院困難な患者への対応事例
杉並区久我山で地域歯科医療を担う伊藤歯科医院の伊藤崇史先生による、破折した義歯の補強線を用いた即日修理症例解説動画をご紹介します。義歯の破折は、日常の歯科臨床において頻繁に遭遇するトラブルであり、患者さんの咀嚼機能や審美性、QOLに直結する問題です。特に、高齢者や通院が困難な患者さんにとっては、迅速かつ確実な対応が求められます。この動画では、まさにそのような状況下で、どのようにして破折義歯を1回の来院で機能回復させたのか、その具体的な手技と臨床判断を詳しく解説しています。
遭遇しやすい義歯破折への実践的アプローチ
動画で取り上げられているのは、上顎の総義歯(コンプリートデンチャー)と思われる義歯が中央部で破折してしまった症例です。伊藤先生はまず、破折面がどの程度きれいに合致するかを確認することの重要性を指摘します。幸い、この症例では破折面が比較的良好に適合したため、修理の難易度はそれほど高くなかったとのことです。もし適合が悪ければ、修理自体が困難になるか、あるいは修理後の精度が低下するリスクがあります。
患者背景を考慮した「1回完結」の治療計画
特筆すべきは、この患者さんが緑内障を患っており、視覚的な制約から頻繁な通院が難しいという背景です。このため、伊藤先生は「1回の来院で修理を完了させる」ことを治療目標に設定しました。これは、単に技術的な側面だけでなく、患者さんの生活背景や負担を考慮した、まさにオーダーメイドの治療計画と言えるでしょう。アロンアルファのような瞬間接着剤での簡易的な接着では、強度が全く足りず、すぐに再破折してしまうことを経験的に知っている伊藤先生は、より恒久的な修理方法を選択します。
補強線を用いた修理法のステップバイステップ解説
動画では、具体的な修理手順が順を追って示されます。
仮固定: まず、破折した義歯のパーツを正確な位置関係で合わせ、磯コンパウンド(現在は瞬間接着剤を使用することもあるとのこと)を用いて仮固定します。手で保持しながらコンパウンドを盛る様子が映し出され、チェアサイドでの臨機応変な対応がうかがえます。
作業模型の製作: 仮固定した義歯を石膏に埋没し、作業模型を作成します。これにより、後の操作中に破折片がずれるのを防ぎ、正確な作業が可能になります。
補強線埋入溝の形成: 石膏が硬化したら、仮固定材を除去し、破折線を横断するように補強線を埋め込むための溝を形成します。この際、義歯の厚みを考慮し、粘膜面に穴が開かないように注意深く行う必要があります。
補強線の設置: 形成した溝に適合するように金属製の補強線を屈曲させ、配置します。本症例では、強度を確保するために2本の補強線が使用されました。
レジンによる固定・研磨: 溝と補強線を即時重合レジンで完全に埋め、硬化後に形態修正と研磨を行い、滑沢な表面に仕上げます。
臨床上の判断と限界
伊藤先生は、理想的にはもう1本補強線を追加したい箇所があったものの、そこにはメタルボンド(陶材焼付鋳造冠)が存在し、切削が困難であったこと、また咬合干渉のリスクがあったことから、補強線の追加を断念した経緯も説明しています。これは、常に理想的な処置ができるわけではなく、口腔内の状況や既存の修復物、咬合関係といった様々な要因を考慮して、現実的な最善策を選択する必要があることを示唆しています。
動画から得られる学び
この動画は、単なる義歯修理の手順紹介にとどまりません。
破折義歯に対する具体的な修理手技(特に補強線の活用法)を視覚的に学べる。
患者さんの背景(疾患、通院の可否など)を考慮した治療計画立案の重要性を再認識できる。
チェアサイドでの即時修理における注意点やコツを知ることができる。
既存修復物や咬合関係による手技の制約と、それに対する臨床判断のプロセスを垣間見ることができる。
残念ながら口腔内セット後の写真はないとのことですが、一連の作業工程は非常に分かりやすく解説されており、義歯修理のスキルアップを目指す歯科医師、歯科技工士、そして訪問診療などに携わる医療従事者にとって、非常に有益な内容となっています。日常臨床で役立つ実践的な知識と技術が詰まったこの動画を、ぜひご覧ください。
【詳細解説】補強線を用いた即日義歯修理の臨床テクニックとその意義 – 破折トラブルへの戦略的アプローチ –
はじめに:義歯破折という日常的な課題
歯科臨床において、義歯(デンチャー)の破折は決して稀な偶発症ではありません。
咬合力の負担、材料の経年劣化、義歯床の不適合、あるいは不慮の落下など、様々な要因が複合的に作用し、義歯は時に破断してしまいます。
特に、レジン床義歯は物性的に破折しやすい傾向にあります。
義歯の破折は、患者にとって単なる物理的な破損にとどまらず、咀嚼機能の低下、審美障害、発音への影響、そして結果としてQOL(Quality of Life)の著しい低下を引き起こす深刻な問題です。
義歯を長期に使用している高齢者においては、この問題はさらに切実です。
加齢による口腔環境の変化(顎堤の吸収、唾液分泌量の減少など)や、全身疾患、身体機能の低下などが相まって、義歯の維持管理が困難になるケースも少なくありません。
このような状況下で義歯が破折した場合、迅速かつ適切な対応が強く求められます。
本稿では、伊藤歯科医院の伊藤崇史先生が公開されている「破折した義歯に補強線を入れて修理を行った症例」の動画コンテンツを基に、補強線を用いた即日義歯修理の具体的な術式、その背景にある理論、臨床的意義、そして考慮すべき点について詳細に解説します。
症例概要:来院困難な患者への対応
動画で紹介されているのは、上顎の義歯が正中付近で破折した症例です。
患者は緑内障を患っており、視力に制約があるため、頻繁な歯科医院への来院が困難な状況でした。
この患者背景は、治療計画の立案において極めて重要な要素となります。
通常であれば、義歯の新製や、ラボサイドでの精密な修理も選択肢に入りますが、複数回の来院が必要となるこれらの方法は、本症例の患者にとっては大きな負担となります。
そこで伊藤先生は、「1回の来院で義歯の機能を回復させる」ことを最優先目標とし、チェアサイドでの補強線を用いた即日修理を選択しました。
これは、患者の個別性を最大限に尊重した、まさに患者中心の医療(Patient-Centered Care)の実践例と言えるでしょう。
過去にも同様の修理を繰り返しながら、この義歯を長期に使用してきたという経緯も、今回の治療方針決定の一因となったと考えられます。
補強線を用いた義歯修理の理論的根拠
義歯の破折修理において、単に破折面をレジンで接着するだけでは、多くの場合、十分な強度を得ることができません。
特に咬合力が強くかかる部位や、応力が集中しやすい部位では、早期の再破折リスクが高まります。
ここで重要な役割を果たすのが「補強線」です。
補強線を破折線と交差するように義歯床内に埋め込むことで、以下のような効果が期待できます。
応力分散: 咬合時などに義歯にかかる力を補強線が受け止め、破折部位への応力集中を緩和します。
強度向上: 補強線自体が持つ剛性により、義歯構造全体の機械的強度を高めます。特に、金属線は高い引張強度と剛性を有します。
亀裂進展の抑制: 万が一、接着したレジン部に微小な亀裂(マイクロクラック)が発生しても、補強線がその進展を物理的に抑制し、完全な再破折に至るのを防ぎます。
使用される補強線の材料としては、コバルトクロム合金線、ステンレススチール線などが一般的ですが、近年ではグラスファイバーなどの非金属材料も応用されています。
線の太さや形状(丸線、角線、メッシュタイプなど)は、破折の状況や必要な強度に応じて選択されます。
具体的な術式ステップ詳解
動画で示された手順を、より詳細な解説と共に見ていきましょう。
診査・診断と前準備:
破折面の確認: 破折片同士が歪みなく、ぴったりと適合するかを精密に確認します。不適合が大きい場合は、修理の精度が低下するため、他の方法(新製など)を検討する必要があります。
口腔内診査: 残存歯や顎堤粘膜の状態、既存の咬合関係を確認し、破折の原因や修理後の安定性に影響を与える要因がないかを評価します。
破折面の清掃: 接着阻害因子となる汚れや旧接着剤などを除去し、清浄な状態にします。
仮固定(Temporary Fixation):
破折片を正確な位置関係で保持し、作業中のズレを防ぐために仮固定を行います。
動画では磯コンパウンド(Impression Compound)が使用されていました。
磯コンパウンドは熱可塑性であり、温めることで軟化し、冷却すると硬化する性質を利用します。操作性は良好ですが、保持力はそれほど強くありません。
伊藤先生は現在、シアノアクリレート系瞬間接着剤を使用することもあると述べています。
瞬間接着剤は硬化が速く、初期固定力も高いですが、接着面積が小さいと強度は限定的であり、あくまで「仮」固定としての使用に留めるべきです。
重要なのは、仮固定材が破折面の内部に流れ込まず、最終的なレジン接着を阻害しないように注意することです。
作業模型の製作(Working Cast Fabrication):
仮固定された義歯を、粘膜面を下にして歯科用石膏(Dental Stone or Plaster)に埋没します。
これにより、義歯の三次元的な位置関係が正確に記録された作業模型が得られます。
埋没時には、義歯が動かないように慎重に行い、石膏が破折線の隙間に入り込まないように注意が必要です。
石膏が完全に硬化するまで十分な時間を置きます。
補強線埋入溝の形成(Groove Preparation for Reinforcement Wire):
石膏模型上で、仮固定材を除去します。
破折線を横断するように、かつ義歯の強度低下を最小限に抑える位置に、補強線を埋め込むための溝を形成します。
通常、タービンやエンジンに取り付けたカーバイドバーやダイヤモンドポイントを使用します。
溝の位置: 破折線に対して垂直、または応力集中が予想される部位を効果的に補強できる位置を選定します。
溝の深さ: 補強線が完全に義歯床内に埋入され、かつ粘膜面や研磨後の義歯表面に露出しない深さを確保します。
義歯床の厚みが薄い場合は特に注意が必要で、粘膜面への穿孔は絶対に避けなければなりません。
溝の幅: 使用する補強線の太さに合わせ、レジンが確実に行き渡る程度のクリアランスを持たせます。
アンダーカット: 溝の側壁に意図的にアンダーカットを付与することで、硬化したレジンの機械的な維持力を高めることができます。
補強線の選択、屈曲、配置(Wire Selection, Bending, and Placement):
症例に適した材質(例:Co-Cr合金線)と太さの補強線を選択します。
プライヤーなどを用いて、形成した溝の形状に沿うように補強線を慎重に屈曲させます。
線が溝の底にぴったりと適合し、浮き上がらないように調整します。
本症例では2本の補強線が平行に配置されました。
これにより、より広範囲の応力分散と強度向上が期待できます。
注意点: 屈曲操作中に線に過度な応力をかけたり、鋭角に曲げすぎたりすると、金属疲労により強度が低下する可能性があるため注意が必要です。
レジンによる固定・充填(Resin Fixation and Filling):
溝と補強線の周囲に、即時重合レジン(Self-curing Resin / Cold-curing Resin)を充填し、補強線を義歯床と一体化させます。
レジンの種類: PMMA(ポリメチルメタクリレート)系のレジンが一般的に用いられます。流し込みタイプや筆積みタイプなどがあります。
接着処理: レジンの接着力を高めるために、溝の内部や破折面に適切な接着処理(プライマー塗布など)を行うことが推奨されます。
充填操作: 気泡を巻き込まないように注意深くレジンを流し込み、補強線が完全に被覆されるようにします。
筆積み法(Brush-on technique)は、比較的気泡の混入を抑えやすい方法です。
重合収縮への配慮: 即時重合レジンは重合時に収縮するため、一気に大量に充填せず、少量ずつ積層するなどの工夫が有効な場合があります。
加圧: 可能であれば、加圧下で重合させることで、気泡の混入をさらに抑制し、緻密な硬化体を得ることができます(プレッシャーポットの使用など)。
形態修正・研磨(Trimming and Polishing):
レジンが完全に硬化したら、アクセス(余剰)レジンを除去し、義歯の元の形態を回復するように形態修正を行います。
カーバイドバーやシリコンポイントなどを使用します。
補強線が露出しないように注意し、周囲の義歯床と滑らかに移行するように形成します。
最終的に、表面を各種研磨材(パミス、研磨用ペーストなど)を用いて滑沢に仕上げます。
滑沢な表面は、プラークの付着を抑制し、患者の舌感や装着感を向上させるために重要です。
本症例における考察と臨床的意義
補強線挿入の限界と臨床判断: 伊藤先生が言及したように、右上1番部(メタルボンド部位)には補強線を追加できませんでした。
これは、硬質なメタルを切削することの困難さ、および切削による既存修復物へのダメージリスク、さらに咬合干渉の可能性を考慮した臨床判断です。
理想的な補強ができない場合でも、利用可能な範囲で最善を尽くし、強度的な懸念が残る場合はそのリスクを評価し、経過観察を行うことが現実的な対応となります。
チェアサイドリペアの利点と限界: このようなチェアサイドでの即日修理は、患者の負担(時間、費用、来院回数)を大幅に軽減できるという大きな利点があります。
特に、本症例のような来院困難な患者にとっては唯一の選択肢となる場合もあります。
一方で、ラボサイドでの修理と比較すると、操作環境や使用できる材料・機器に制約があり、必ずしも最高の精度や強度が得られるとは限りません。
術者の技量や経験も結果を左右します。
患者中心の医療の実践: 本症例は、単に技術的な側面だけでなく、患者の個別の状況(疾患、生活環境、希望)を深く理解し、それに基づいて最適な治療計画を立案・実行することの重要性を示しています。
緑内障という視覚障害を抱える患者の「通院の困難さ」を汲み取り、1回完結の修理を選択した判断は、患者中心の医療の好例と言えます。
長期的な視点: 補強線を用いた修理は、義歯の延命に大きく貢献しますが、永続的なものではありません。
修理した義歯であっても、定期的なメンテナンス(適合状態のチェック、咬合調整、清掃状態の確認など)は不可欠です。
また、再破折のリスクはゼロではないため、患者への適切な指導(硬いものを避ける、丁寧な取り扱いなど)も重要となります。
まとめ:明日からの臨床に活かす
伊藤崇史先生によるこの症例解説動画は、補強線を用いた即日義歯修理という、具体的かつ実践的なテクニックを学ぶ上で非常に価値のある資料です。
その手技は、破折面の適合確認から始まり、仮固定、作業模型作成、溝形成、補強線設置、レジン充填、研磨に至るまで、論理的かつ系統的に進められています。
さらに重要なのは、この動画が単なるテクニック紹介に留まらず、患者背景を深く考慮した治療計画の立案プロセスや、臨床現場における現実的な制約(既存修復物、咬合など)の中での意思決定の重要性を示唆している点です。
義歯破折は、どの歯科医師もが遭遇する可能性のある普遍的な問題です。
この動画で示された知識と技術は、一般歯科医師はもちろん、歯科技工士、訪問歯科診療や高齢者歯科に関わる医療従事者、そしてこれから臨床経験を積む若手歯科医師や研修医に至るまで、幅広い層にとって有益な学びとなるでしょう。チェアサイドでの対応能力を高め、患者のQOL向上に貢献するための実践的なヒントが、この動画には詰まっています。