講師紹介 伊藤高史

- 伊藤高史
- いとう歯科医院 院長
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即日・院内での義歯修理の質向上を目指す歯科医師
義歯の強度不足による破折再発防止策を学びたい歯科医師
義歯の修理・調整を担当する歯科技工士または歯科衛生士
本動画は、義歯(入れ歯)が破折した緊急性の高い症例に対し、90分以内で対応できる修理技術を紹介します。特に、人工歯部が破損したケースを取り上げ、破折原因となりやすい「薄い義歯床」に対する強度向上策を詳述。
治療方針として、破折部(特に薄い舌側)に補強線(ワイヤー)を埋入することで、修理後の強度を大幅に高める手順を解説しています。補強線や即時重合レジンを入れるための溝掘りの方法から、レジン填入後の厚み増加による強度アップまでを追います。
また、修理後の違和感や疼痛を避けるため、粘膜面にはみ出したレジンの確認と慎重な調整を行うなど、簡単な修理でも手を抜かない臨床の注意点についても言及。日常臨床で頻発する義歯トラブルへの即時対応を学びたい先生方におすすめです。
本動画で紹介される症例は、患者さんが「入れ歯が壊れた」として来院したケースです。義歯はバイトアップされた状態で使用されており、その人工歯の部分が破折していました。特に舌側が透けるほど薄く製作されていたため、強い咬合力やブラキシズム(歯ぎしり)、クレンチング(食いしばり)などによる過度な負荷が、破折の主な原因として推測されます。義歯の厚み不足は、破折リスクを著しく高めるため、修理に際しては強度回復が最重要課題となります。
治療方針の核心は、破折した義歯床の薄い部分に補強線(ワイヤー)を埋入することです。この補強線と即時重合レジンを保持させるための穴や溝を義歯に掘り込み、そこに補強線を固定します。補強線が埋まる程度にレジンを盛り付けることで、物理的に義歯床の厚みを増し、かつワイヤーによる引っ張りの強度を加えることで、再破折のリスクを軽減します。「どんなに壊れていても90分でできる」という迅速な対応は、患者さんの不便を最小限に抑えるための重要なサービス品質です。
修理に使用するレジンを盛り付け、強度を確保できる厚みを持たせます。即時重合レジンを用いた修理では、厚みが増しても、これまで問題なく使用していた義歯であれば、多くの患者さんが違和感を訴えることなく使用を継続できることが臨床経験から示されています。これは、患者さんが機能面での改善を優先的に受け入れているためと考えられます。
修理完了後、特に注意すべきは粘膜面のチェックです。レジンを盛り付けた際に、レジンが粘膜面に向けてはみ出して出っ張ることがあります。このわずかな出っ張りであっても、粘膜に干渉することで、義歯の不適合(入らない)や、特定の部位に圧力がかかることによる疼痛を引き起こす可能性があります。患者さんが「これまで痛くなかったのに、修理したせいで痛くなった」という事態を避けるためにも、必ず粘膜面を丁寧に観察し、出っ張っている箇所を削合・調整してからセットすることが、簡単な修理であっても「気を付けること」として強調されています。
この症例のようにバイトアップが必要なケースは、ブラキシズムやクレンチングなど、過度な咬合力が作用している可能性が高いことを示唆します。単に修理を行うだけでなく、義歯床の厚みを増すことで強度的なマージンを持たせること、そして可能であればナイトガードなどの追加的な対策を検討することが、長期的な義歯の安定に不可欠です。