講師紹介 高野正博

- 高野正博
- たかの歯科医院
- 院長
- 「目標を持ち、それを実現するための経営スキルを身につけることで、理想の医院経営が可能になる」という考えのもと、多くの歯科医師に向けて、医院経営のサポートを行っています。
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日々の診療に加え、スタッフの採用、教育、定着に課題を感じている院長先生は多いのではないでしょうか。この動画では、スタッフが安心して働けるポジティブな環境構築の重要性から、院長が発揮すべきリーダーシップとマネジメントの具体的な方法、さらにはスタッフのモチベーションを引き出すためのマズローの欲求5段階説の応用まで、実践的なノウハウが凝縮されています。医院の理念を浸透させ、スタッフ一人ひとりが主体的に動く、生産性の高い組織作りを目指す上で、具体的なヒントと勇気を与えてくれるでしょう。
院長とスタッフの橋渡し役として、より良いチーム作りを模索しているマネージャー層にとって、この動画は必見です。スタッフ間のコミュニケーションを円滑にし、医院全体の一体感を醸成するための具体的な手法、例えば、人によって物事の捉え方が異なることを理解する「スキー場のイラスト」のワークや、意識の向け方で情報収集が変わる「カラーバス効果」などは、日々の業務指導やチームミーティングで即座に活用できるでしょう。院長のビジョンを現場スタッフに効果的に繋ぎ、診療の質と患者満足度の向上に貢献する、強いチーム運営のキーパーソンとしての役割を再認識できます。
現在勤務医として臨床経験を積む中で、将来の自身の医院経営について漠然とした不安や期待を抱いている先生方もいらっしゃるでしょう。本動画は、経営者としての視点、特に「ヒト」に関するマネジメントの要諦を、開業前に学ぶ絶好の機会となります。院長が直面するスタッフマネジメントのリアルな課題、そしてそれを乗り越え理想のチームを形成していくプロセスは、ご自身の医院コンセプトや組織運営を構想する上で、極めて有益なケーススタディとなるはずです。自身のキャリアプランニングにおいても、リーダーシップやコミュニケーションの重要性を深く理解する一助となるでしょう。
日々の業務において、後輩スタッフの指導やチーム内の人間関係調整に心を砕いている歯科衛生士や歯科助手のリーダーの方々にも、多くの学びがあります。動画で紹介される「安心・安全・ポジティブな場作り」の考え方や、スタッフ一人ひとりの「人生の目的」を尊重し、医院での仕事がその達成に寄与するよう支援する姿勢は、指導や面談の質の向上に直結します。また、コミュニケーションの根底にある「自己評価」の概念を理解することで、より建設的で共感的な関わり方が可能になり、チーム全体の士気を高め、働きがいのある職場環境を実現する原動力となるでしょう。
優秀な人材の確保と育成は、歯科医院の持続的成長に不可欠です。この動画では、「どのようなスタッフに困るか」を逆算して採用基準を明確化するユニークなアプローチや、医院の理念・行動指針を具体化した「クレド」の作成と浸透方法、さらには入職後のスタッフ教育や研修を効果的に行うためのヒントが提供されています。特に、スタッフの満足度や幸福度を高めることが、結果として医院への貢献に繋がるという視点は、採用戦略からオンボーディング、継続的な教育プログラムの策定に至るまで、一貫した人材育成方針を構築する上で重要な指針となるでしょう。
歯科医院経営において、最新の医療技術や設備投資と並び、あるいはそれ以上に重要性を増しているのが「人材育成」と「チームマネジメント」です。患者満足度の向上、安定した医院運営、そして何よりもスタッフ一人ひとりが輝きながら働ける環境作りは、多くの院長先生が追求する理想の姿ではないでしょうか。しかし、日々の診療に追われる中で、スタッフとのコミュニケーションや組織運営に課題を感じている先生方も少なくないはずです。
この度ご紹介する動画は、千葉県柏市でご開業の高野先生が、「迷わない医院経営、理想の医院を実現するための4ステップ」という包括的なテーマのもと、その第3章として「人材育成とチームマネジメント」に焦点を当てて解説するものです。高野先生ご自身の経験と学びに基づいた、具体的かつ実践的な内容は、歯科医院の「人」に関する悩みを抱える全ての歯科医療従事者にとって、貴重な道しるべとなるでしょう。
動画の冒頭で高野先生が強調されるのは、「安心・安全・ポジティブな場を作ること」の重要性です。これは、スタッフが心理的安全性を感じ、自由に意見を発し、前向きに業務に取り組める組織文化の基盤となります。院長が威圧的であったり、否定的なコミュニケーションが横行する環境では、スタッフの自主性や創造性は育まれず、指示待ちの雰囲気が蔓延してしまいます。このような「負のサイクル」を断ち切り、スタッフの成長を最大限に引き出すための第一歩が、この「場の醸成」にあると先生は説きます。
さらに、歯科医師にありがちな「完璧主義」からの脱却も提唱されています。100%の準備が整うまで行動できない、あるいはスタッフにも完璧を求めすぎてしまう傾向は、時にコミュニケーション不全やスタッフの疲弊を招きます。まずは一歩踏み出してみる勇気、小さな成功体験を積み重ねることの大切さが語られます。
院長の役割は多岐にわたりますが、特に「経営者」「管理者」としての側面がクローズアップされます。動画では、「リーダーシップ」と「マネジメント」の違いを明確に定義。リーダーシップとは「目的地(ビジョン)を指し示す力」、マネジメントとは「目的地へ到達するための具体的な方法を考え、チームを導く力」であると解説されます。
例えば、「富士山に登る」というビジョンを院長が掲げたとして、一部のスタッフから「ディズニーランドが良い」という意見が出た場合、安易に迎合するのではなく、なぜ富士山を目指すのかという意義を伝え、共感を醸成し、チームをまとめ上げるのがリーダーの役割です。そして、富士山へどのようなルートで、どのような装備で、どのようにチームをサポートしながら登るのかを具体的に計画し実行するのがマネジメントです。歯科医院という小規模な組織においては、院長自身がこの両方の役割を高いレベルでこなす必要性が説かれています。
スタッフは一人ひとり異なる価値観や考え方を持っています。動画内で紹介される「スキー場のイラスト」を用いたワークは、同じものを見ても人によって着眼点や解釈が全く異なることを視覚的に理解させ、多様性受容の重要性を示唆します。また、「カラーバス効果」の解説を通じて、目標を意識することで必要な情報が自然と目に入るようになるメカニズムを説明し、スタッフに医院の方向性や院長の考えを共有することの意義を強調しています。
さらに、マズローの欲求5段階説を引用し、スタッフの基本的な欲求(生理的欲求、安全欲求)が満たされて初めて、医院への貢献意欲(社会的欲求)や自己成長への意欲(承認欲求、自己実現欲求)が生まれると解説。給与や福利厚生といった外的要因だけでなく、スタッフ一人ひとりの人生の目標や幸福を考慮し、医院での勤務がその実現に繋がるような支援(例えばコーチングの活用)が、長期的なエンゲージメントを育む鍵であると述べられています。
動画の後半では、サイモン・シネック氏の「ゴールデンサークル理論」を引き合いに出し、「What(何をするか)」ではなく「Why(なぜそれをするのか)」から伝えるコミュニケーションの重要性が力説されます。「私たちは最新の設備で高度なインプラント治療を提供します」という伝え方よりも、「私たちは、皆様が生涯にわたり健康で豊かな食生活を送れるよう、お口の健康を通じて全身の健康に貢献したいと心から願っています。そのために、日々研鑽を積み、最新の知識と技術をもって、お一人おひとりに最適な治療を提供します」といった、「なぜ」の部分にフォーカスしたメッセージが、患者さんやスタッフの心を動かし、深い共感を生むのです。
本動画は、単なるテクニック論に終始するのではなく、院長自身の「あり方」や「理念」の重要性を一貫して説いています。スタッフとの信頼関係を構築し、共通の目標に向かって共に成長できるチームを作り上げたいと願う全ての歯科医療関係者にとって、具体的で、かつ示唆に富んだ内容となっています。ぜひ、この動画を通じて、理想の医院実現への確かな一歩を踏み出してください。
現代の歯科医療は、単に疾病を治療する場から、口腔の健康維持・増進を通じてQOL(Quality of Life)の向上に寄与する、より包括的な役割を担うようになってきました。このような背景の中、歯科医院経営の成否を分ける重要な要素として、「人材育成」と「チームマネジメント」の重要性がますます高まっています。歯科医療は本質的に労働集約型の産業であり、歯科医師、歯科衛生士、歯科助手、受付など、多様な職種のスタッフが連携して初めて質の高い医療サービスを提供できます。患者満足度は、技術的な側面はもちろんのこと、スタッフの接遇態度やコミュニケーション能力、院内の雰囲気といったソフト面に大きく左右されるため、スタッフの質こそが医院の競争力の源泉と言っても過言ではありません。
本稿では、千葉県柏市でご開業の高野先生による動画「迷わない医院経営、理想の医院を実現するための4ステップ – 第3章 人材育成とチームマネジメント」の内容を基に、理想の歯科医院を実現するための人材育成とチームマネジメントの核心について、より深く、詳細に解説していきます。
優れた人材育成やチームマネジメントは、一朝一夕に成し遂げられるものではありません。まずは、スタッフが安心して能力を発揮し、成長できるための組織基盤を整備することが不可欠です。
高野先生が動画の冒頭で繰り返し強調されているのが、「安心・安全・ポジティブな場を作ること」の重要性です。これは、ハーバード大学のエイミー・エドモンドソン教授が提唱した「心理的安全性(Psychological Safety)」の概念と軌を一にするものです。心理的安全性が高い職場とは、スタッフが「こんなことを言ったら馬鹿にされるのではないか」「失敗したら厳しく叱責されるのではないか」といった不安を感じることなく、自由に意見を述べたり、疑問を呈したり、新しいことに挑戦したりできる環境を指します。
歯科医院において心理的安全性が低い場合、スタッフは院長や先輩の顔色をうかがい、自ら提案したり、業務改善のアイデアを出したりすることを躊躇しがちです。結果として、指示待ちの受動的な姿勢が蔓延し、組織全体の活力が失われてしまいます。高野先生は、院長がブスっとした顔で一方的に話すミーティングではなく、スタッフが積極的に発言し、たとえそれが未熟な意見であっても頭ごなしに否定せず、受け止める姿勢が重要であると説いています。ポジティブなフィードバックや建設的な対話を奨励し、誰もが尊重され、受け入れられていると感じられる「場」を意識的に構築することが、全ての組織運営の出発点となります。
歯科医師という職業は、その専門性から完璧主義的な思考に陥りやすい傾向があります。ミスの許されない精密な治療を日々行う中で、ゼロか百か、白か黒かで物事を判断しがちな思考パターンが、コミュニケーションやスタッフマネジメントの場面でも影響を及ぼすことがあります。高野先生は、この「完璧主義」からの脱却を推奨しています。
完璧な準備が整うまで行動に移せない、あるいはスタッフの些細なミスを許容できないといった姿勢は、医院全体の成長を妨げる要因となり得ます。新しい取り組みや改善活動において、最初から完璧を目指すのではなく、まずは「やってみる」というチャレンジ精神を尊重し、たとえ失敗したとしても、それを学びの機会として捉え、次に活かしていく文化を醸成することが重要です。スタッフが萎縮することなく、主体的に行動できる環境は、このような「脱・完璧主義」の精神から生まれます。
効果的な人材採用と育成のためには、医院がどのような人材を求めているのかを明確にする必要があります。高野先生は、単に「理想のスタッフ像」を思い描くだけでなく、「これだけはされたら困る」「こういうスタッフは嫌だ」といったネガティブな側面から逆算して考えるアプローチを提案しています。これにより、医院として譲れない価値観や行動規範がより具体的に浮かび上がり、採用基準の明確化や既存スタッフへの期待値の共有に繋がります。
そして、これらの価値観や行動規範を明文化したものが「クレド(Credo)」です。クレドとは、ラテン語で「信条」「志」「約束」を意味する言葉で、企業や組織においては、従業員が共有すべき価値観や行動指針を示すものです。高野先生の医院では、クレドカードを作成し、朝礼やミーティングで共有することで、スタッフの意識統一と行動変容を促しているとのことです。クレドを導入する際には、その作成目的を明確にし、スタッフが共感し、日々の業務の判断基準として活用できるよう、浸透させるための継続的な工夫が不可欠です。クレドは、単なるお題目ではなく、医院の文化を形成し、ブランド価値を高めるための強力なツールとなり得ます。
歯科医院の規模に関わらず、院長は経営者、管理者、そして臨床家という三つの役割を担う必要があります。特に、人材育成とチームマネジメントにおいては、リーダーシップとマネジメント能力が問われます。
高野先生は、リーダーシップとマネジメントの違いを明確に理解することの重要性を説いています。
リーダーシップ:「目的地(ビジョン)を指し示し、そこへ向かう意義を伝え、チームを鼓舞する力」
例えば、医院が「地域で最も患者さんに信頼され、愛される歯科医院になる」というビジョンを掲げた場合、なぜそれが必要なのか、それを達成することでどのような未来が待っているのかをスタッフに情熱をもって語り、共感を醸成するのがリーダーの役割です。動画では、「富士山を目指すのか、ディズニーランドを目指すのか」という例えを用いて、リーダーが明確な方向性を示すことの重要性を強調しています。スタッフの意見に安易に流され、目的地がぶれてしまうようでは、リーダーとしての資質が問われます。
マネジメント:「目的地へ到達するための具体的な戦略、計画を立案し、リソースを最適に配分し、進捗を管理し、チームを導く力」
上記のビジョンを達成するために、どのような診療体制を構築するのか、どのような患者コミュニケーションを行うのか、どのようなスタッフ教育プログラムを実施するのかといった具体的な計画を立て、実行し、その過程で生じる課題を解決していくのがマネージャーの役割です。自動車で目的地へ行く際に、どの道を選び、どのくらいの速度で走り、途中で給油や休憩をどのように取るかを計画・実行するイメージです。
小規模な歯科医院では、院長がこのリーダーシップとマネジメントの両方の役割を担うことが一般的です。ビジョンを熱く語るだけでなく、それを実現するための具体的な道筋を示し、スタッフをサポートしていく実践力が求められます。
リーダーシップの根幹をなすビジョンですが、それを明確に言語化し、スタッフと共有することの難しさを、高野先生は「サザエさんの絵」の例えを用いて説明しています。毎日見ているはずのサザエさんの顔も、いざ描こうとすると正確に描けないように、院長が頭の中で漠然と考えているビジョンも、明確に言葉や形にしようとしなければ、スタッフには伝わりません。
第1章でビジョナリープランについて触れられているように、医院の目指すべき姿、在りたい状態を具体的に描き出し、それをスタッフと共有することで、初めてチーム全体が同じ方向を向いて進むことができます。このビジョンは、日々の業務における判断基準となり、スタッフのモチベーションの源泉ともなります。
強固な組織基盤と院長のリーダーシップのもと、次に重要となるのが、スタッフ一人ひとりの能力を引き出し、医院への貢献意欲(エンゲージメント)を高めるための具体的な施策です。
スタッフは、それぞれ異なる経験、価値観、考え方を持っています。高野先生は、「スキー場のイラスト」を見せて、どこが一番気になるかを質問するワークを紹介しています。同じイラストを見ても、山頂の行列が気になる人、ロープウェイの切れた部分が気になる人、楽しそうに滑っている子供が気になる人など、着眼点は様々です。これは、スタッフ一人ひとりが物事を異なる視点で見ていることの現れであり、その多様性を理解し、尊重することがチームワークの基本となります。院長やリーダーは、自分の視点だけが正しいと考えるのではなく、多様な意見に耳を傾け、それぞれの強みを活かせるような環境を作ることが求められます。
「カラーバス効果」とは、特定の色を意識すると、街中でその色のものがやたらと目につくようになる現象のように、人間は意識しているものに関する情報を自然と集めやすくなるという心理効果です。高野先生は、この効果を引用し、医院の目標や院長の考え方をスタッフに明確に伝えることの重要性を説いています。目標が共有され、スタッフがそれを意識するようになると、日々の業務の中でその目標達成に必要な情報やアイデアに気づきやすくなり、主体的な行動が促されます。
スタッフマネジメントにおいて、「平等」と「公平」の違いを理解することは非常に重要です。高野先生は、全てのスタッフに全く同じ対応をする「平等」ではなく、それぞれの状況や能力、貢献度に応じた適切な対応をする「公平」を目指すべきであると述べています。例えば、経験の浅いスタッフには手厚い指導が必要かもしれませんが、経験豊富なスタッフにはより大きな裁量を与えることが成長に繋がるかもしれません。画一的な扱いではなく、個々のスタッフの背景やニーズを理解し、それぞれが最大限のパフォーマンスを発揮できるよう、個別最適化された支援を行うことが、真の公平性と言えるでしょう。
スタッフのモチベーションをいかに高めるかは、多くの院長が抱える課題です。高野先生は、アブラハム・マズローが提唱した「欲求5段階説」を用いて、人間の欲求の階層構造と動機付けのメカニズムを解説しています。
生理的欲求: 食事、睡眠など、生命維持に必要な基本的な欲求。
安全欲求: 身体的・経済的な安全、健康の維持など、安定した生活を求める欲求。
社会的欲求(所属と愛の欲求): 集団への所属、仲間との良好な関係、愛情を求める欲求。
承認欲求(尊厳欲求): 他者からの承認、尊敬、自己尊重感を求める欲求。
自己実現欲求: 自身の可能性を最大限に発揮し、理想の自分になりたいという欲求。
マズローによれば、低次の欲求がある程度満たされて初めて、より高次の欲求が動機付け要因として現れます。歯科医院においては、まず給与や労働時間、職場環境といった生理的欲求や安全欲求を満たすことが大前提です。その上で、良好な人間関係やチームへの帰属意識(社会的欲求)、院長や同僚からの適切な評価や称賛(承認欲求)を得られるようにすることで、スタッフはより高いレベルでの貢献や自己成長(自己実現欲求)を目指すようになります。東日本大震災や新型コロナウイルスのパンデミックのような事態は、まさに安全欲求が脅かされる状況であり、そのような時にリーダーがどのような言動を取るかは、スタッフの信頼に大きく影響します。
スタッフのエンゲージメントを長期的に維持するためには、医院の目標とスタッフ個人の人生目標やキャリアプランを可能な限り調和させることが重要です。高野先生は、スタッフに「人生の目的は何か」「幸せとは何か」を問いかけ、5年後、10年後の目標設定を促していると述べています。そして、医院での勤務が、スタッフ自身の目標達成の過程において有益な経験となり、自己実現の場となるように支援するスタンスが大切であると強調しています。
そのための具体的な手法として、定期的な個人面談やコーチングスキルの活用が挙げられます。コーチングとは、対話を通じて相手の目標達成や自己成長を支援するコミュニケーション技術です。院長がコーチングスキルを身につけ、スタッフの考えや想いを丁寧に傾聴し、彼らが自ら答えを見つけ出せるようにサポートすることで、スタッフの主体性や問題解決能力が育まれます。また、外部講師を招いて、スタッフの自己肯定感を高めるセミナーなどを実施することも有効な手段です。
組織基盤が整い、スタッフのモチベーションが高まっても、効果的なコミュニケーションと意図的なチームビルディングがなければ、組織力は十分に発揮されません。
コミュニケーションの質は、実は個々の「自己評価」に大きく影響されると高野先生は指摘します。スタンフォード大学の監獄実験の例を挙げ、人は与えられた役割(例:看守役、囚人役)によって、その役割にふさわしいと(無意識に)評価される行動を取るようになることを説明しています。院長自身も、医院では「院長」という役割を演じ、家庭では「夫」や「親」という役割を演じているように、場面や相手によって異なる自己評価に基づいてコミュニケーションを取っています。
スタッフとのコミュニケーションにおいて、院長がどのような自己評価(例:「自分は絶対的な権威者である」「自分はスタッフの支援者である」)で接するかによって、その態度や言葉遣いは大きく変わります。スタッフが萎縮せず、建設的な対話ができる関係性を築くためには、院長自身がどのような役割を意識し、どのような自己評価でスタッフに接するべきかを自覚することが重要です。
組織の求心力を高め、一体感を醸成するためには、医院が何のために存在し(ミッション)、どこへ向かおうとしているのか(ビジョン)、そして何を大切にして行動するのか(バリュー)を明確にし、全スタッフで共有することが不可欠です。高野先生は、医院のMVVだけでなく、スタッフ個人のミッション・ビジョン・バリューについても考える機会を設けていると述べています。これにより、組織の方向性と個人の価値観が重なる部分を見出し、より深いレベルでの共感とコミットメントを引き出すことができます。これらのMVVは、採用、評価、日常の意思決定など、あらゆる場面での判断基準となります。
人々を動かすコミュニケーションの秘訣として、高野先生はサイモン・シネック氏が提唱する「ゴールデンサークル理論」を紹介しています。多くの企業や人は、「What(何をしているか)」→「How(どうやっているか)」→「Why(なぜやっているか)」の順で物事を伝えます。しかし、Apple社のような革新的な企業は、「Why(なぜやっているか)」→「How(どうやっているか)」→「What(何をしているか)」の順で伝えることで、人々の感情に訴えかけ、強い共感を生み出していると分析されています。
歯科医院においても、単に「私たちは最新のマイクロスコープを使って精密な根管治療をします(What)」と伝えるよりも、「私たちは、患者様が一本でも多くの歯を残し、生涯ご自身の歯で美味しく食事を楽しめるよう、歯の神経の治療に情熱を注いでいます(Why)。そのために、マイクロスコープを用いた精密な診断と治療技術を追求し(How)、再発リスクの低い、質の高い根管治療を提供しています(What)」と伝える方が、患者さんやスタッフの心を動かし、信頼関係の構築に繋がります。院長が「なぜこの仕事をしているのか」「なぜこの地で開業したのか」「なぜこのスタッフと共に働いているのか」という根本的な問いに対する答えを明確に持ち、それを情熱をもって語ることが、組織文化を形成する上で極めて重要です。
強いチームは一日にして成らず、段階的な育成プロセスが必要です。高野先生は、チームビルディングのステップを以下のように示しています。
知識の壁(無知): スタッフは、院長の考えや医院の目指す方向性、新しい取り組みについて知らない状態。
知っている: 研修やミーティングを通じて、知識や情報を得る。
やってみる: 実際に知識を業務で試してみる。
できる: 試行錯誤を経て、スキルとして定着する。
習慣化: 無意識にできるようになり、日常業務の一部となる。
文化: 医院全体の共通認識や行動様式として根付く。
院長は、このステップを理解し、焦らず、段階的にスタッフを導いていく必要があります。知識を伝えるだけでなく、実践の機会を提供し、フィードバックを与え、成功体験を積ませることで、新しい行動が習慣化し、やがて医院の良い文化として醸成されていきます。
高野先生の動画全体を通じて貫かれているメッセージは、人材育成やチームマネジメントにおけるテクニックや「やり方(How to)」以上に、院長自身の「あり方(Being)」や理念、哲学が重要であるということです。院長がどのような価値観を持ち、何を大切にし、スタッフや患者さんにどのように接するのか。その「あり方」が、スタッフの共感を呼び、信頼関係を育み、自律的に行動するチームを創り上げます。
言行一致の姿勢、スタッフを大切にする心、そして理想の医院像を語り続ける情熱。これらが土台となって初めて、様々なマネジメント手法が効果を発揮します。この動画は、歯科医院経営における「人」という永遠のテーマに対し、普遍的かつ実践的な示唆を与えてくれる貴重な学びの機会となるでしょう。