歯科医療事故の実例から学ぶ安全管理と予防対策

ORTC Online, 歯科衛生士, 歯科医, 歯科助手

医療の高度化が進む中、歯科医療における事故防止は最重要課題の一つとなっています。
本記事では、実際に発生した医療事故の事例を取り上げ、部位取り違えや手技ミス、器具の誤飲など、典型的な事例を詳しく分析しました。

これらの事例から得られた教訓をもとに、効果的な予防対策と安全管理体制の構築について解説していきます。

部位取り違えによる事故


歯科医療事故の中で最も多く報告されているのが、治療部位の取り違えです。
特に以下のような事例が報告されています。

事例1:矯正治療に関連する誤抜歯

左側唇顎口蓋裂を伴う反対咬合の患者様で、矯正治療のために左下智歯の抜歯を予定していました。
しかし、術者は埋伏している第二大臼歯を智歯と誤認し、抜歯。

事前に「37が未萌出なので誤抜歯に注意」という注意書きがあったにもかかわらず、この事故が発生しています。

この事例から学ぶべき対策として、以下のことが挙げられます。


・術前の画像による詳細な位置確認

・複数の医師による確認

・手術前カンファレンスの実施


上記3つに、歯科医師および歯科衛生士は注意が必要です。

事例2:歯冠修復時の部位誤認

12番の冠除去予定が22番と誤認識され、21-23の連結冠を誤って切削してしまった事例も報告されています。
診療録やレントゲン写真の十分な確認を怠ったことが原因でした。こちらも注意が必要な事項です。

手技・方法に関する事故


手技・方法に関する事故は誤認の次によく起こる事故として認知されています。
1つずつ確認していきましょう。

事例3:インプラント埋入時の事故

左上7番へのインプラント埋入術において、上顎洞に穿孔してしまった事例があります。
術前のCT撮影で骨量を確認していましたが、埋入方向の誤りにより事故が発生しました。

この事例では、以下の改善策が提案されています。
 

・術前の3次元的な位置確認

・手術用ガイドの使用検討

・チームでの術前検討会の実施
 

歯科医院のスタッフは歯科医師、歯科衛生士、歯科助手とチームで動いているため、すべてのスタッフが状況を認知している必要があるでしょう。

誤飲・誤嚥事故


次に多い医療事故としては、誤飲・誤嚥事故です。

こちらは患者様への声掛けも注意しながら行うことで防げることがあります。
 

以下で詳しく事例と解決策を説明するので参考にしてください。

事例4:器具の誤飲

研修医が歯冠修復処置時に使用していた形成用バーがタービンから外れ、患者様が誤飲してしまった事例があります。
この事故では以下の要因が指摘されています。
 

・バーの装着確認不足

・単独での処置

・診療補助者の不在
 

改善策として、器具の定期点検の実施や使用前の確実な装着確認、研修医の指導体制の強化が実施されました。

神経損傷に関する事故


神経損傷に関する事故も例外ではありません。
この事故は主に歯科医師にふりかかる問題になっています。

事例5:抜歯時の神経損傷

右側下顎埋伏智歯の抜歯時に、舌神経を損傷してしまった事例があります。
抜歯時に頬側から遠心性に舌側を削合した際、舌神経損傷のリスクを認識せず、適切な保護措置を取らなかったことが原因でした。
 

この事例から得られた教訓として、解剖学的構造の十分な理解と手術手技の標準化、指導医への適切な相談が重要とされています。

効果的な予防対策


これらの事例から、以下の予防対策が重要であることが分かります。

ぜひ参考にしてください。

システム面での対策

医療事故防止には、チェックリストの活用とマニュアルの整備が重要です。
チェックリストでは、患者様氏名と治療内容の照合、X線写真と口腔内所見の対比確認、処置部位の確認など、術前の確認項目を明確化します。また、治療時には鉗子やへーベルを使用する前の最終確認、助手との部位確認の声出し、患者様本人による治療部位の指差し確認なども必須です。
 

マニュアルには、舌側からの抜歯手順やインプラント埋入時の位置確認手順など、標準的な治療手順を文書化しましょう。さらに、誤飲・誤嚥時や神経損傷時、大量出血時などの緊急時対応手順も整備します。
 

これらは形式的なものではなく、実際の診療現場で使いやすく効果的なものとし、定期的な見直しと更新を行うことで、より実効性の高い安全管理体制を構築することができます。

人的要因への対策

医療事故事例から、効果的な教育研修の実施が重要であることが明らかになっています。

定期的な安全教育では、画像診断システムの操作研修や器具の正しい取り扱いトレーニング、解剖学的知識の確認を計画的に実施することが求められます。
特に新人教育においては、段階的な技術習得プログラムの実施と指導医の立ち会いが不可欠です。
 

また、コミュニケーションの不足は医療事故の大きな要因となっています。
診療情報提供書の正確な作成と確認、電子カルテへの詳細な記録など、職種間の確実な情報共有が重要です。

カンファレンスでは、術前の治療計画の詳細確認や、複数の医師による手術アプローチの検討を行います。

特に医師の交代や退職時には、患者様情報の丁寧な引き継ぎが必要です。
これらの人的要因への対策は、システム面での対策と組み合わせることで、より効果的な医療安全管理を実現することができます。

まとめ

実際の医療事故事例から、以下の点が特に重要です。
 

1. 確実な部位確認と手技の実施

2. 組織的な安全管理体制の構築

3. 効果的なコミュニケーション

4. 継続的な教育と改善活動
 

医療事故の防止には、個人の注意だけでなく、組織全体での取り組みが不可欠です。
これらの事例から学び、より安全な医療の提供を目指していく必要があります。
ぜひ事故のない安全な治療にお役立てくださいね。

 

編集・執筆

歯科専門ライター 萩原 すう

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