
歯科で使われる麻酔の種類と選び方|歯科衛生士・技工士が知っておきたい基本と応用
はじめに
歯科治療において、患者が最も不安に感じやすい「痛み」をコントロールするために欠かせないのが麻酔です。麻酔の種類や薬剤の特性を正しく理解して選択・管理することは、安心安全な診療の実現に直結します。
本記事では、歯科で使用される麻酔の種類とそれぞれの特徴、作用機序、トラブル対応、さらに歯科衛生士や歯科技工士が知っておくべきポイントを網羅的に解説します。明日からの臨床にすぐに活かせる知識を、わかりやすく整理しました。
歯科で使われる麻酔の種類とは?
歯科では、処置内容や患者の状態に応じて、以下の麻酔法が使い分けられます。
麻酔の種類 | 発現時間 | 持続時間 | 主な適応 | 注意点 |
---|
表面麻酔 | 数十秒 | 約10分 | 注射痛の軽減、軽微なデブライトメント | アレルギー既往歴・開放創に注意 |
浸潤麻酔(局所麻酔) | 1〜3分 | 30〜60分 | 虫歯処置、歯周治療など | 炎症部位では効きにくい |
伝達麻酔 | 5〜10分 | 2〜3時間 | 下顎臼歯の抜歯・根管治療 | 解剖学的バリエーションに配慮 |
笑気吸入鎮静法 | 数分 | 使用中のみ | 小児・恐怖心が強い患者 | 呼吸器疾患・妊娠初期は禁忌 |
静脈内鎮静法 | 数分 | 数十分〜1時間 | インプラントや外科手術などの長時間処置 | モニタリングと医師の管理体制が必須 |
各麻酔法は単独で使われることもありますが、処置の種類や患者の緊張レベルに応じて複数を併用する場合もあります。
麻酔薬の種類と作用機序
歯科で使われる局所麻酔薬は主に「アミド型」に分類され、薬剤ごとに作用時間・代謝経路・適応範囲が異なります。
主な局所麻酔薬
○リドカイン(商品名:キシロカイン)
もっとも一般的に使用される麻酔薬。作用発現が早く、30〜60分ほど持続します。アドレナリンを添加することで止血効果と作用時間延長が得られます。肝代謝型であるため、肝機能障害のある患者には注意が必要です。
○メピバカイン(商品名:スキャンドネスト)
血管収縮薬を添加しなくても十分な効果があるため、高血圧や心疾患を持つ患者に適しています。浸潤・伝達麻酔いずれにも使われます。作用時間は60〜90分とやや長めで、肝代謝されます。
○アーティカイン(商品名:ウブステシン)
アミド型とエステル型の構造を併せ持ち、エステラーゼによる血中代謝を受けるため、肝疾患がある患者にも使用しやすいのが特徴です。骨透過性が高く、特に下顎への浸潤麻酔に有効で、即効性にも優れています。
作用機序
麻酔薬は、神経細胞のナトリウムチャネルを遮断し、活動電位の発生を阻害することで、痛みの伝導を防ぎます。これにより、患者は痛みを感じにくくなります。血管収縮薬を併用することで、麻酔効果を長時間持続させ、薬剤の全身拡散を抑えることが可能です。
麻酔ごとのメリットとデメリットは?
麻酔法 | メリット | デメリット |
---|
表面麻酔 | 注射前の痛み軽減に有効 | 深部には効かず、適応が限定的 |
浸潤麻酔 | 多くの処置に対応、操作が容易 | 強い炎症があると効きづらい |
伝達麻酔 | 広範囲に麻酔可能、下顎臼歯に有効 | 技術習得が必要、持続時間が長め |
笑気吸入鎮静法 | 患者がリラックス、即効性 | 効果は弱く、局所麻酔併用が基本 |
静脈内鎮静法 | 強力な鎮静効果、外科処置に有効 | 医師の全身管理が必要、適応に制限あり |
実際の現場では、患者の全身状態や処置時間、精神的な不安度などを踏まえて適切な麻酔法が選択されます。
歯科衛生士・技工士が関わる麻酔時の役割とは?
歯科衛生士の役割
術前の確認:バイタルサインや既往歴を確認し、麻酔のリスク要因を把握します。
表面麻酔の塗布:歯科医師の指示に基づき、注射前の表面麻酔を実施する場面もあります。
笑気吸入鎮静法下の観察:患者の意識や呼吸状態、酸素飽和度などをモニターし、異常がないか確認します。
術後の指導:麻酔が効いている間の食事やうがいに関する注意点、誤咬防止の説明を行います。
歯科技工士の視点
補綴装着時の配慮:仮歯の試適や調整時に痛みが予想される場合、医師との連携を図り麻酔のタイミングを調整します。
外科的処置との連携:インプラントなど外科手術と技工操作が密接な場合、術中の麻酔時間や処置の流れを把握することで、補綴計画に活かします。
チーム医療の観点からも、歯科衛生士・技工士が麻酔に関する知識を持ち、医師とのスムーズな連携を図ることは、安全な医療提供に不可欠です。
麻酔に伴うトラブルと対処法
局所麻酔中毒:麻酔薬の過量投与や血管内誤注入により、意識障害や痙攣が起こることがあります。対応としては酸素投与、緊急連絡、救急搬送が基本です。
アナフィラキシー反応:初回投与時に蕁麻疹、呼吸困難、血圧低下などが見られる場合は、即時にアドレナリンを投与し、救急対応を行います。
メトヘモグロビン血症:いくつかの薬剤によっては誘発する可能性があります。表面麻酔薬に含まれるベンゾカインは重大なリスクを引き起こします。また歯科容量では稀ですがリドカインも同様です。さらに日本では使用頻度が低いプリロカインなどの使用も誘発させる可能性があります。発症するとチアノーゼや倦怠感が見られ、メチレンブルーによる治療が必要です。
これらのトラブルは稀ではあるものの、迅速な初期対応が患者の予後に大きく関わるため、慎重な患者選択とトラブルを常に想定しておくことが大切です。
よくあるQ&A:臨床の現場で迷うポイントを整理
Q. 麻酔が効きにくい患者にはどう対応する?
炎症が強い部位では局所のpHが酸性に傾き、麻酔効果が低下します。伝達麻酔への切り替えや、アーティカインの使用が効果的です。
Q. 笑気吸入鎮静法は誰にでも使える?
妊娠初期、重度の呼吸器疾患、中耳疾患を有する患者には使用を控えるべきです。必ず既往歴を確認しましょう。
Q. 高齢者に対する麻酔の注意点は?
薬剤の代謝が遅れるため、用量の調整が必要です。特に肝機能や腎機能に問題がある場合は慎重な管理を行いましょう。
おわりに
麻酔は歯科治療の安全性と快適性を左右する重要な要素です。歯科医師だけでなく、歯科衛生士や技工士も麻酔に関する知識を持つことで、チーム医療としてより質の高いケアが提供できます。
麻酔薬の特性や患者ごとのリスクを正しく理解し、安全な歯科治療の実現を支えていきましょう。
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