
1.はじめに:なぜ今、ジルコニアが選ばれるのか
近年、補綴物の材料として「ジルコニア」の名前を耳にする機会が増えたという先生や歯科衛生士も多いのではないでしょうか。
CAD/CAM技術の進化により、従来よりもスピーディに、審美性と強度を兼ね備えた補綴物が提供できるようになり、ジルコニアはその中心的存在として注目されています。
特に、金属アレルギーの懸念がある患者さんや、審美性を求める方にとって「メタルフリー」「白くて自然な見た目」は大きな魅力。また、歯科衛生士の視点から見ると、ジルコニアはプラークの付着が少なく、清掃性が高いため、メンテナンスがしやすい点でも優れた材料と言えます。
●経験談
実際に、金属のクラウンからジルコニアクラウンに置き換えた患者さんから「なんだか口の中がすっきりした」「違和感が少ない」と言っていただけることもあります。審美性だけではなく、機能面でも患者満足度の高い素材だと感じます。
2.ジルコニアの特徴と他の補綴材料との比較
ジルコニアは「人工ダイヤモンド」とも呼ばれるほどの強度を誇り、臼歯部などの咬合力が強い部位にも安心して使える材料です。代表的な補綴材料との違いを以下にまとめてみます。
材料 | 強度 | 審美性 | 金属アレルギー | 価格帯 | 適応症例 |
---|
ジルコニア | ◎ | ◎ | ◎ (メタルフリー) | 高め | 臼歯・前歯・ブリッジ |
e.max | ○ | ◎ | ◎ (メタルフリー) | 中〜高 | 前歯・単冠 |
メタルボンド | ○ | ○ | △(金属あり) | 高め | 前歯・ブリッジ |
ハイブリッド | △ | ○ | ◎ | 低〜中 | 臼歯以外 |
最近では、多層構造のジルコニアが登場し、前歯部でも自然なグラデーションが表現可能になっています。強度と審美性の両立が可能な時代です。
●経験談
臨床では、「ジルコニアは表面がツルツルしている」と感じることが多く、プラークの付着が抑えられることで、患者さんのセルフケアもしやすくなる印象があります。これはメンテナンスに関わる者として大きなメリットです。
3.ジルコニア補綴装着後の注意点とメンテナンス
ジルコニア補綴を選択した場合、装着後のメンテナンスにもいくつかの注意点があります。
スケーリング時の器具選び
ジルコニアは非常に硬いため、超音波スケーラーの金属チップが当たると細かい傷が入り、光沢が失われる可能性があります。そのため、プラスチック製やチタン製のチップを使用するなどの配慮が求められます。
咬合調整とチッピング
強度が高いジルコニアですが、薄くなる部分や咬合負荷が集中する部位では「チッピング(破折)」のリスクもゼロではありません。咬合の確認と咬合調整を丁寧に行い、ナイトガードの使用を勧めることもあります。
4.患者さんへの説明で使える!ジルコニアの「伝え方」
ジルコニアは保険適用外のことが多く、患者さんにとっては「高額な治療」と映ります。そのため、患者さんが納得して選べるような説明が重要です。
よく使う説明トーク例
・「ジルコニアは金属を使っていないので、歯茎が黒くなりにくく、金属アレルギーの心配がありません」
・「人工ダイヤモンドの素材で、非常に丈夫です。長期的に使うのに安心です」
・「保険の被せ物よりもの汚れがつきにくいので、むし歯や歯周病の再発予防にもつながります」
●経験談
私の場合、患者さんに「白くて自然な見た目です」というだけではなく、「表面がツルツルしていて、細菌がつきにくいので清掃がしやすいですよ」と伝えると、口腔内の健康意識が高い方は興味を持ってくださいます。
5.よくある質問とQ&Aで学ぶジルコニアの基礎
Q1:ジルコニアは絶対に割れませんか?
→いいえ。非常に強度が高いですが、薄く削ると割れやすくなります。咬合管理や厚みの確保が重要です。
Q2:ジルコニアは変色しますか?
→基本的にはしません。ただし、表面が傷ついたり、研磨が不十分なままだとステインが付着しやすくなります。
Q3:歯ぎしりがある人にも使えますか?
→可能ですが、ナイトガードの併用を推奨します。チッピング防止になります。
Q4:どんな人に向いてますか?
→金属アレルギーの方、審美性を重視する方、長期間の使用を希望される方にもおすすめです。
Q5:メンテナンスは大変ですか?
→むしろ、表面性状が滑沢なので清掃性がよく、歯科衛生士としてもケアしやすい素材です。
6.今後の展望と歯科衛生士の役割

近年は保険のCAD/CAM冠の素材にも進化が見られ、ジルコニアを使用した保険対応の補綴物が出てくる可能性もあります。今後ますます「ジルコニアはスタンダード」となる日が近いかもしれません。
歯科衛生士としては、補綴物の選択理由を理解し、メンテナンスと患者教育に活かすことが役割のひとつ。「入れたら終わり」ではなく、「入れてからがスタート」。その先を支えるためのスキルと知識が求められます。
●歯科衛生士としての想い
ジルコニアのような高品質な補綴物ほど、長く使ってもらうためのケアが重要です。
そのために、私たち歯科衛生士が果たすべき役割は、ますます大きくなっていると感じています。
7.ジルコニアの種類と選び方
ジルコニアと一口に言っても、臨床では複数のタイプが使用されており、それぞれに特徴と適応症があります。
フルモノリシックジルコニア
透明度が高く、天然歯に近い審美性を持ちながら、十分な強度を確保できるタイプ。前歯や小臼歯に適応されます。
高強度のジルコニア
透過性は低いが、非常に高い強度を誇り、臼歯部やブリッジなどに使用します。審美性よりも機能重視の部位に適します。
多層ジルコニア
グラデーション構造により、自然な色調を再現できます。前歯部など、審美性が求められる症例に適しています。
8.接着・装着時のポイント
(歯科衛生士が知っておくべき知識)
ジルコニア補綴物は、接着操作にも特有の配慮が求められます。
・専用プライマーの使用:ジルコニアはガラス系セラミックと異なり、シラン(カップリング)処理でなく、MDPモノマーを含む製品(例:Z-Prime Plus)を使用することで、接着性が向上します。金属酸化物と化学結合し、接着強度を高める効果が高いため、MDP単独または主成分のプライマーが推奨されます。
・接着剤の選定:レジンセメントの使用が推奨される場面が多く、セルフアドヒーシブタイプや従来型レジンセメントの使い分けが必要です。
セルフアドヒーシブタイプ:前処理が比較的少なく、操作が簡単
保持形態がしっかりしたクラウンやブリッジ、臼歯部に適応。
従来型レジンセメント:接着強度が高く、低保持形態や審美補綴に対応しやすい
前歯部や支台歯形成量が少ない症例に適応
歯科衛生士が接着の流れを理解しておくことで、患者説明や装着後のメンテナンスにも役立ちます。
9.最新トピック:ジルコニアの未来と可能性
ジルコニアは特に進化の著しい分野です。ここでは、注目すべき最新トピックをいくつか紹介します。
(1)保険収載の拡大
2024年以降、一部のジルコニア補綴物が保険適用に含まれるようになる可能性が示唆されており、今後、保険と自費の境界線が変わることも考えられます。保険収載されることで、今後患者さんの選択肢が広がる可能性があります。同時に歯科衛生士・歯科医師ともに知識のアップデートが不可欠となるでしょう。
抗菌・抗プラーク処理技術
ナノテクノロジー技術を応用し、ジルコニア表面に抗菌性やプラーク抑制効果を持たせる研究が進められています。これにより、よりメンテナンス性に優れた補綴物が登場しつつあります。
3Dプリント技術の進化
従来のCAD/CAMミリングだけでなく、ジルコニアの3Dプリントによる制作の研究も進行中です。加工精度と時間短縮の両立が期待されています。コスト削減の面でも大きな革新となる可能性があります。
10.歯科衛生士の関わり方
ジルコニア補綴を装着した患者さんには、以下のようなケアと観察が求められます。
・補綴部の清掃指導(タフトブラシ、フロス、スーパーフロスなどの提案)
・ナイトガード使用状況の確認
・定期的なリコールによる適合状態・歯肉状態のチェック
そして、患者さんによっては「硬すぎて天然歯に悪影響があるのでは」という不安を抱えていることもあります。そのような声に対して、科学的な根拠をもとにわかりやすく説明することが信頼構築にもつながります。
また、「ジルコニアだから安心」ではなく、「ジルコニアだからこそ適切なメンテナンスが必要」という視点が大切です。
今後も素材や技術の進化に対応し、チームで最適な補綴ケアを提供していきましょう。
11.今後の学びとチーム医療での活かし方

ジルコニアを含む補綴治療において、歯科衛生士が知識を持つことで、チーム医療の中で以下のような役割を果たせます。
・補綴設計時の情報提供(口腔清掃状態、ブラッシング傾向など)
・装着後の衛生管理と患者教育
・素材ごとのメンテナンス方法の共有
・再製防止に向けた記録と情報のフィードバック
今後、歯科衛生士・歯科技工士・歯科医師が素材や症例に応じた共通言語を持ち、密な情報共有をすることで、補綴物の精度と長期安定性がさらに高まっていくことが期待されます。
12.まとめ
ジルコニアは、強度・審美性・生体親和性を兼ね備えた、現代の歯科補綴の主力素材のひとつです。そして、そのジルコニアの価値を最大限に引き出すには、日々のメンテナンスや患者さんへの正しい情報提供が欠かせません。
歯科衛生士としては、
・ジルコニアの基本的な特性と種類を理解すること
・補綴後のメンテナンス方法やセルフケアの指導に活かすこと
・歯科医師や患者さんと円滑なコミュニケーションをとるための知識を持つこと
が求められます。
歯科衛生士として、素材への理解を深め、ジルコニアの魅力を伝えられる存在になりましょう。
歯科衛生士ライター:大久保
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