歯科医師はなぜ勤務医を雇えないのか?70%の歯科医師が一人で診療する実態を解説!

歯科経営

勤務医を雇いたくても雇えない、深刻な現実

 

毎年新しい歯科医師が生まれても、なぜ勤務医は増えないのか?

歯科医院を経営するにあたって、「勤務医を雇いたくても雇えない」という深刻な現実があり、いま問題視されています。歯科診療所を経営する歯科医師の実に約70%が、勤務医を雇えないまま、一人で診療を続けているのです。

毎年歯科医師の国家試験合格者は出ているのに、なぜ勤務医は増えないのでしょうか?厚生労働省のデータをもとに解説しましょう。

「医療施設動態調査」によると、歯科診療所の数は67,501件(2023年1月31日現在)、それに対して勤務医の人数は32,922人(2020年厚生労働省「医療施設調査・病院報告の結果の概要」)です。

 

勤務医を雇っている診療所は30%程度しかない

  • この数だけを見ると、歯科診療所の2件に1件は勤務医を雇えそうですが、実際はそうではありません。「平成31年版 医療統計年報」によると、2021年4月1日時点で2人以上の勤務医がいる歯科診療所は約18,200件で、3人以上は約5,600件となっています。
  • そのため、2人以上の勤務医を雇っている診療所もあれば、まったく雇えていない診療所もあるというのが現実です。勤務医を雇えている歯科診療所は、実際30%程度しかおらず、約70%の歯科診療所は院長一人で診療をがんばらねばなりません。当然事業の拡大はできませんし、無理して患者を増やせば、院長が疲弊してしまうでしょう。

 

歯科業界全体の構造が、勤務医を雇えない仕組みになっている

では、新たに歯科医師として働き始めるドクターの数は、何人ぐらいいるのでしょうか?2023年の歯科医師国家試験の合格者数は、2006人でした。

例年80~85%の歯科医師が、歯科診療所に就職するため、1年で新たに診療所が採用できる歯科医師は1,600~1,700人になります。

しかし、毎年この程度の人数が増えたぐらいでは、焼け石に水。ほとんどの歯科医院は勤務医を採用できないでしょう。つまり、歯科大学を含めた歯科業界全体の構造が、勤務医を雇えない仕組みになっているのです。

 

 

医院の業績よりも、幸福度を上げることに気持ちをシフトする方法もある

 

勤務医を雇うことが、選択肢のすべてではない

このような現実を踏まえた上で、いったい院長は歯科診療所をどのように運営すればいいのでしょうか?勤務医を雇えないという現実がある以上、経営者は発想の転換をしなければなりません。

「勤務医を雇うことがすべてではない」という発想を持ち、そこからどう自分自身が将来設計をするかを、考えていく必要があるのではないでしょうか。

 

夫が歯科医師、妻が歯科衛生士でクリニックを経営するケース

たとえば、診療所の業績を伸ばすよりも、より幸せに暮らす生き方を考えるというのも、ひとつの選択肢です。歯科クリニックの中には、ご夫婦二人で運営し、ご主人が歯科医師、奥様が歯科衛生士というケースも少なくありません。

夫婦2人で経営しているので、患者さんの希望する時間に診療を合わせても、2人の足並みが揃えば誰も文句は言いません。ときには数日間診療を休んで、夫婦で海外旅行に出かけることもできるでしょう。

 

夫婦経営なら必要以上に患者さんを増やす必要もない

必要以上に患者さんを増やすことなく、信頼関係を築ける患者さんと長いお付き合いをすれば、幸福度は驚くほどアップします。
目標を「収入」ではなく「幸福」にシフトさせてしまえば、同級生のSNSを見てがっかりする必要もありませんし、求人費を毎月支払って「良い人材がいない」と嘆く必要もありません。
このように、自分にベストな経営スタイルを見つけることができれば、歯科医師としてより充実した人生を送れるのではないでしょうか。

 

夫婦でクリニックを経営するメリットは大きい

 

ご夫婦ともに歯科医師で、クリニックを経営しているケース

ご主人が歯科医師、奥様が歯科衛生士というケースも多いのですが、ご夫婦ともに歯科医師というパターンも少なくありません。この場合も、勤務医不足を心配することなく、ご夫婦でお互いのペースに合わせてクリニックの経営を行うことができます。

たとえば、ご主人がインプラントや難しい歯科治療を担当し、奥様が補綴や小児歯科を担当するという場合は、子どもから高齢者まで幅広い患者さんを2人で診療することができます。

一人の患者さんの診療をワンストップでできるので、地域の歯科医療をやっていく上では、理想的な診療スタイルといえるでしょう。

 

夫婦2人で診療することで、1日の患者数をかなり増やせる

ご夫婦ともに歯科医師でクリニックを経営する場合、2人のドクターの収入があるので、経営はもちろん安定します。

ご主人だけでは1日30人ほどしか診療できないところ、奥様がさらに20人ほど診療すれば、1日の患者数を50人ほどに増やすことができます。

同一生計なので、勤務医にいくら支払うかで悩む必要もありません。お互いに本気でクリニックの経営を何とかしていこうと思っているので、院長だけでは気付かないところを、奥様が優しくカバーしてくれるということもあるでしょう。

 

夫婦のクリニック経営は、テナント代の削減にもつながる

夫婦で医院を経営することは、経営に重くのしかかるテナント代の削減にもつながります。自宅をクリニックにすれば、家賃は大幅に抑えられますし、通勤の負担もありません。たとえテナントを借りても、地域の歯科医療なら、都心を外せば家賃をかなり抑えられるでしょう。

もちろん、医院併用住宅には、プライバシーの問題などのデメリットもあります。その辺は、メリットとデメリットを具体的に把握した上で、慎重に考える必要があります。

 

 

夫婦経営がうまくいくか否かは、お互いの信頼関係にかかっている

 

夫婦のクリニック経営がうまくいかないケースもある

ご夫婦ともに歯科医師の方の中には、「夫婦で歯科医院を経営するのは、やめた方がいい」と言われたことがある人も、いるのではないでしょうか?

たしかに、夫婦のクリニック経営がうまくいかないケースも、少なからずあります。特に問題なのは、夫婦関係がうまくいっていない場合です。

夫婦喧嘩が多い家庭は、かえって一緒にいる時間が長い分、ストレスもたまるでしょう。夫婦仲が悪いのは、患者さんも気付いてしまうので、居心地が悪くて他院に移ってしまうケースもあります。

 

夫婦のクリニック経営に最も大切なのは、お互いの信頼関係

夫婦で歯科クリニックを経営する上で大切なのは、夫婦が調和し、お互いの強い信頼関係があることです。

同じ価値観を持ち、同じ将来の夢を見られるような関係であれば、夫婦経営をすることのメリットはかなり大きいでしょう。

子育て中の家庭であれば、自宅をクリニックにすることで、子どもたちはいつも働く両親の姿を見て育つことができます。

地域医療に懸命になる両親の姿を見ていれば、息子や娘も「自分も歯科医師になりたい」と自然に思うようになり、跡継ぎ問題の解消にもつながります。

 

夫婦経営のメリット&デメリットを考えて、慎重な判断を

夫婦経営には、メリットもあればデメリットもあります。その点をよく理解した上で、慎重に判断するのがベストの方法です。

本当に夫婦経営が適しているのか否かを知るには、お互いによく話し合った上で、将来を見据えたキャリアプランを立てるのが最善の方法でしょう。

 

 

 

 

コラム:伊藤樹理

<プロフィール>

ライター歴25年。企業や医療施設、教育施設の記事を中心に執筆活動をしている。歯科をメインに150ヶ所以上の病院・クリニックを取材し、地域医療のあり方や医師・医療スタッフの働き方とキャリアを見つめている。国家資格キャリアコンサルタント。

 

 

<出典>

 

医療施設動態調査

https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/iryosd/m23/dl/is2301_01.pdf

 

2020年厚生労働省「医療施設調査・病院報告の結果の概要」

https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/20/dl/R02_kekka-2.pdf

 

第116回歯科医師国家資格の合格発表について

https://www.mhlw.go.jp/content/10803000/001073186.pdf

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