歯科経営
診療報酬の改定は基本的に2年に1回行われ、薬価に関しては毎年見直されます。改定される内容は、たとえば診療報酬の「項目」が追加・削除される場合や、「点数」が変更になる場合、「施設基準」や「算定要件」が見直される場合などがあります。
2024年に行われた診療報酬改定は、医療・介護・障害福祉サービス等報酬の3つが同時に改定される「トリプル改定」として注目を集めました。
診療報酬は診療行為への対価を決める制度であり、介護報酬は要介護者・要支援者へ、障害福祉サービスは難病疾患の対象者へのサービス対価を決める制度です。
今回の改定にあたって厚労省が発表した基本認識は、以下の通りです。
●物価高騰・賃金上昇、経営の状況、人材確保の必要性、患者負担・保険料負担の影響を踏まえた対応
●全世代型社会保障の実現や、医療・介護・障害福祉サービスの連携強化、新興感染症等への対応など医療を取り巻く課題への対応
●医療DXやイノベーションの推進等による質の高い医療の実現
●社会保障制度の安定性・持続可能性の確保、経済・財政との調和
厚生労働省「令和6年度診療報酬改定に向けた基本認識、基本的視点、具体的方向性について」より引用
この基本認識に沿って、診療報酬の点数などが決められていきます。
では、今回の改定ではどのような点が変更になったのか具体的に確認していきましょう。
1)初診・再診料の引き上げ、加算への評価
歯科初診料および地域歯科診療支援病院歯科初診料が3点、歯科再診料および地域歯科診療支援病院歯科再診料が2点引き上げられました。
2)歯科外来診療環境体制加算(外来環)の改変
歯科外来診療環境体制加算(外来環)が、歯科外来診療医療安全対策加算(外安全)と歯科外来診療感染対策加算(外感染)に改変されました。
これには施設基準があり、経過措置があるが再届出が必要となる外感染1(12点)は、歯科衛生士がいなくても院内感染防止対策研修を受けた職員がいれば届出可能になりました。
3)医療情報取得加算への名称変更
医療情報・システム基盤整備体制充実加算が、医療情報取得加算に名称変更されました。
この加算には情報の取得・活用が要件となります。
4)歯科診療特別対応加算(特)の対象患者が拡大
歯科診療特別対応加算(特)の対象患者が拡大され、歯科診療特別対応加算(1~3)に再編されました。
今回の改正で「医療DX推進体制整備加算」が新設されました。
これは、オンライン資格確認や電子カルテ情報共有サービス、電子処方箋のシステムを導入した場合に評価の対象になるというものです。
オンライン資格確認の範囲拡大も進められ、介護保険・予防接種・母子保健・公費負担医療・地方独自の医療費助成などの情報がマイナンバーカードと連携されることで、再び訪れるかもしれない未曾有の感染症危機に対応するための政策も行われています。
今回の診療改修改定における重要なポイントは、外来医療の推進です。
外来医療におけるポイントとして、「かかりつけ医機能」、「外来機能の分化の推進」、「オンライン診療」が挙げられます。
また、外来においての主要な見直し内容として、生活習慣病(糖尿病、脂質異常症、高血圧)が「特定疾患療養管理料」の対象疾患から除外されました。
現行の「生活習慣病管理料」は、検査などを包括する「生活習慣病管理料(Ⅰ)」、検査などを包括しない「生活習慣病管理料(Ⅱ)」に再編されます。
「生活習慣病管理料(Ⅰ)」は「生活習慣病管理料」の名称が変更されたもので、40点の引き上げが決定しました。月1回以上の診療を行う要件を廃止するなどの見直しも行われています。新設された「生活習慣病管理料(Ⅱ)」は、検査などを出来高で算定できます。
今回の診療報酬改定のポイントとしては、「地域包括ケアシステム」のより一層の充実が挙げられます。
トリプル改定に関連する話題として、「2025年問題」と「2040年問題」も注目されています。
2025年問題は、団塊の世代が後期高齢者になることで医療・介護などを必要とする方が急増する課題の総称です。
2025年に団塊の世代が75歳以上を迎えることで高齢者の人口が一気に増えるので、高齢者の方々が自宅で安心して暮らせるよう地域ネットワークを構築することが大切になります。
そのためには、患者さんを取り巻く医療や介護、生活支援などの従事者同士が、活発に情報を交換し合う必要があります。
今回の改定では、他の診療科への情報提供に対する診療報酬の加算額を増やすことで、情報連携の活発化が図られました。
「在宅医療情報連携加算」は、そのひとつとして新設された評価です。医師が患者に計画的な医学管理を行う際、関係職種がICTを用いて記録した診療情報などを活用した場合に100点を加算できます。
また、患者の状態に応じた往診を推進するため、単発の往診に関して「緊急往診加算」「夜間・休日往診加算」「深夜往診加算」の引き下げが決定しました。
歯科においては以下のような点が変更されました。
1)訪問診療料が人数に応じて3区分から5区分に細分化
訪問診療1は時間要件なく1100点が算定できることとなり、これに伴い20分未満の場合でも歯科訪問診療移行加算(訪移行)や在宅歯科医療推進加算(在推進)等が算定可能となりました。同一建物で同日に4人以上の場合は、引き下げとなります。
2)在宅療養支援歯科病院が新設
施設基準の届出が必要で、在宅歯科診療の後方支援機能や介護・福祉施設との十分な連携実績などが求められます。
3)算定評価の変更
歯在管、訪問口腔リハ、小訪問口腔リハにおけるNST加算(1~2)が独立評価となり、在宅歯科栄養サポートチーム等連携指導料(1~3)として算定されることとなりました。
歯在管、訪問口腔リハ、小訪問口腔リハに対し、他の保険医療機関などからの情報提供に基づき管理計画を作成した場合の在宅歯科医療連携加算などが新設されました。
今回の診療報酬改定で特徴的なものの1つとして、「介護支援員等からの情報提供も踏まえた管理計画を作成した場合における加算点数が設けられた」ことです。
この点数を新たに設けたことから、すでにある医科と歯科の連携に加え、介護側まで広がる内容となっており、地域包括ケアシステムの推進を着実に進めようとしていることが感じられます。
現状では、医科歯科連携においてもまだまだ活発とは言えないのが現状です。その要因は個々の医院によって様々かと思いますが、その中でも「どのように連携していけば良いかがわからない」という迷いが大きな障壁になっているのではないかと思われます。
しかし、昨今では歯周病が糖尿病や高血圧、脳卒中などの全身疾患の原因になることや、口腔機能の低下が全身の健康を損なう原因となることなどが一般知識として浸透してきました。
このように歯科領域は様々な全身疾患と密接に繋がっていることから、医科や介護との情報連携の重要性が叫ばれています。
今回の改定で診療報酬の項目が増えたことを足がかりとして、歯科と医科、そして介護との情報連携への取り組みがスタートされることが望まれます。
<まとめ>
今回は2024年の診療報酬改定の中でも実際の診療現場とつながりが深く、分かりやすい部分を掘り下げて引用してきました。
診療報酬の改定から、国の大まかな方針や目指す道筋が見えてきます。
ぜひご自身でも改定内容についてさらに調べてみてくださいね。
ライター:古家
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