歯科経営
医院の経営環境は、いま大きな転換期を迎えています。地域に根ざして長年診療を続けてきた医院であっても、「後継者がいない」「患者数が減少している」「人件費や材料費の高騰で経営が厳しい」といった悩みを抱える院長先生は少なくありません。
一方で、閉院という選択を避け、医院の価値を次世代につなぐ手段として「歯科医院のM&A(譲渡・承継)」が注目を集めています。
M&Aというと、一般企業同士の買収や合併をイメージする方も多いかもしれません。
しかし近年では、歯科業界でも中小規模のクリニックを中心に、個人開業医と法人・グループ医院との間での譲渡事例が増加しています。
背景には、後継者不足と経営の多様化があり、特に院長の高齢化が進む地域では、患者やスタッフを守るために「譲渡」という形を選ぶケースが目立ちます。
M&Aを選択することで、医院の資産や信頼、スタッフの雇用を守りながら、地域医療を継続できるという大きなメリットがあります。
とはいえ、M&Aは専門知識を要する領域であり、誤った判断はトラブルにもつながりかねません。「どの仲介会社に相談すればいいのか」「譲渡の準備は何から始めればいいのか」と不安を抱える経営者も多いでしょう。
本記事では、歯科医院M&Aの基礎知識から、仲介会社の役割、安心して譲渡を進めるための実務ポイントまでを整理し、閉院ではなく「承継」という新しい選択肢を現実的に検討するためのヒントをお伝えします。
歯科経営者が未来を前向きに描くための参考として、ぜひ最後までご覧ください。
日本歯科医師会の調査によると、全国の歯科医院数は約6万8000件とコンビニエンスストアを上回っています。
しかしその裏では、閉院件数も増加傾向にあり、とくに地方では「患者はいるが後継者がいない」ことで廃業せざるを得ないケースが目立っています。
さらに、診療報酬の伸び悩みや材料費・人件費の上昇、感染対策コストの増加といった外部要因が経営を圧迫しています。
加えて、デジタル化や予防歯科へのシフト、法人化の進展など、業界全体が変革期を迎えていることも大きな要因です。
こうした背景の中で、M&Aは単なる「売却」ではなく、医院の理念と地域医療を次世代へとつなぐ手段として再評価されています。
長年培った信頼関係と医院資産を守りながら、新たな形で事業を継続できる選択肢として、注目が高まっているのです。
「そろそろ引退を考えているが、後継者がいない」多くの歯科経営者が直面する課題です。
閉院を選択するケースも少なくありませんが、実際には多くのコストと負担が伴います。
まず、医療機器や什器の廃棄費用、リース契約の清算、内装の原状回復などで数百万円単位の出費が発生します。さらに、長年通ってくれた患者への通知や紹介先の調整、スタッフの雇用問題など、精神的な負担も避けられません。
一方でM&Aを選べば、医院の資産・患者・スタッフの雇用を守りながら、経営を次の担い手に引き継ぐことが可能です。
買い手にとっても、既存の立地・患者基盤・スタッフ体制を活かして早期に経営を安定化できるというメリットがあります。
また、譲渡益を老後資金や新たな挑戦に充てることで、院長自身のライフプランにも余裕が生まれます。
閉院という「終わり」ではなく、次の世代へ価値を託す“未来をつなぐ”経営判断として、M&Aが現実的な選択肢となっているのです。
このように、M&Aは「守りの引退」ではなく、「医院の価値を残すための攻めの戦略」として捉えることができます。
詳しくはこちら→Q&A
歯科医院のM&Aを成功させる上で重要なのが、信頼できる仲介会社の存在です。M&Aは、買い手探しから交渉、契約、引継ぎに至るまで専門的な知識が必要で、個人レベルでの対応は難しいのが現実です。
代表的な仲介会社には「日本M&Aセンター」や「ストライク」などがあり、いずれも医療・歯科業界に特化したチームを持っています。これらの仲介会社は、譲渡希望医院の企業価値評価(バリュエーション)を行い、条件に合う買い手候補を紹介します。その後、秘密保持契約を締結し、条件交渉から最終契約、引継ぎまでをトータルにサポートします。
費用体系は会社により異なりますが、一般的には「成功報酬型」か「着手金+成功報酬型」。
報酬は譲渡金額の数%が目安です。成功報酬型を採用する会社であれば、初期費用を抑えてスタートできる点も魅力です。
M&Aは単なる取引ではなく、医院の「第二の経営」を設計するプロセスです。単に金額面だけでなく、「この会社なら自分の医院を安心して託せる」と思えるパートナーを見つけることが成功の鍵になります。
M&Aをスムーズに進めるには、事前準備が非常に重要です。譲渡を成功させるために、次の4つの視点で医院の現状を整理しましょう。
決算書や試算表、借入状況、リース契約書など、医院の財務情報を正確に整理することが第一歩です。不透明な支出や私的流用がある場合、買い手からの評価が下がる可能性があります。税理士の協力を得ながら、「第三者が見ても信頼できる財務状況」を整えることが理想です。
スタッフは医院の運営を支える大切な存在です。譲渡によって雇用条件が変わる不安を与えないよう、早い段階で仲介会社と相談し、雇用継続の方針や条件を契約書に明記しておきましょう。
患者が突然の経営交代に驚かないよう、引継ぎ期間を設け、旧院長が一定期間診療に関与するケースも有効です。患者に安心感を与え、医院の信頼を損なわずに事業を継続できます。
医療機器のリース、建物の賃貸契約、保守サービスなどの契約状況をリスト化しておくことで、譲渡後の手続きがスムーズになります。
これらの準備を事前に整えておくことが、買い手との信頼構築とスムーズな契約締結につながります。
M&Aに対して多くの院長が抱く不安は、「本当に信頼できる相手に譲れるのか」「スタッフや患者が混乱しないか」という点です。実際、条件交渉の途中でトラブルが生じることもあります。
最も注意が必要なのは、秘密保持と条件交渉の透明性です。情報が外部に漏れれば、スタッフの動揺や患者離れにつながる恐れがあります。そのため、仲介会社と厳密な守秘義務契約を結び、情報管理を徹底することが欠かせません。
また、譲渡契約書には、雇用継続や引継ぎ期間、譲渡金額の支払条件などを明文化しておくことが重要です。弁護士や税理士など、第三者の専門家を交えて契約内容を確認することで、後のトラブルを未然に防ぐことができます。
大手仲介会社では、医療業界の慣習やスタッフ心理に精通した担当者が付き、心理的サポートを含めて伴走してくれるケースもあります。M&Aは単に経営を手放す行為ではなく、医院の未来と人の想いをつなぐプロジェクトです。信頼できる支援者と共に進めることで、不安は大きく軽減できます。
歯科医院のM&Aは、院長が築いてきた価値を守りながら次世代へ引き継ぐための持続可能な経営戦略です。閉院という「終わり」ではなく、「未来へのバトン」を渡すという発想に切り替えることで、患者・スタッフ・地域医療を守り続けることができます。
後継者問題や経営の先行きに悩む経営者こそ、M&Aという選択肢を前向きに検討すべき時代です。信頼できる仲介会社に早めに相談し、準備を整えておくことで、納得のいく譲渡を実現できます。
さらに詳しい手続きや成功事例、最新の動向は、歯科医療メディア ORTC on-line のM&A関連特集でも詳しく紹介しています。
未来を閉じるのではなく、「つなぐ」ための第一歩を、今ここから踏み出してみてはいかがでしょうか。
Q1. 歯科医院のM&Aの相場は?
A. 歯科医院のM&Aの費用は、一般的に数百万円から3,000万円程度と幅がありますが、立地、患者数、設備、運営主体(個人または医療法人)などの条件によって大きく変動します。売却価格は「時価純資産+営業権」で計算されることが多く、営業権は3年分程度が目安とされます。
Q2. M&Aとは何ですか?
A. M&A(エムアンドエー)は「Mergers(合併) and Acquisitions(買収)」の略で、企業を合併させたり、他の企業を買収したりする行為を指します。これは、企業の成長、事業承継問題の解決、新規事業の多角化などの戦略的な目的で行われ、株式、譲渡合併、事業譲渡など様々な手法があります。
Q3. M&Aの大手5社は?
A. M&A(企業買収・合併)の仲介を行う大手5社とは、一般的に、日本M&Aセンター、M&Aキャピタルパートナーズ、ストライク、M&A総合研究所、そしてfundbookの5社を指します。これらの企業は、中小企業のM&A件数増加の中で、企業間を取り持つ仲介役として注目されており、売上高や上場状況、提供サービス内容などでそれぞれ特徴があります。
Q4. 歯科医院がM&Aをするのにはどんなメリットがありますか?
A. M&Aで買収すれば、医師や事務員などをそのまま引き継ぐことができます。買収側は、低コストで歯科医院を得られる点もメリットです。歯科医院の開業資金は、一般的に3,000万円〜5,000万円、内装や機器にこだわるとそれ以上必要です。M&Aで買収すれば、案件や交渉にもよりますが、低コストで歯科医院を引き継ぐことができます。

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