歯科経営
高齢化率の急増化が止まらない日本。
このまま進行すると、2025年には人口の5人に1人が75歳以上になる超高齢化社会を迎えることになります。
そうなれば、医療費の増大は避けられません。
さらに医療費のひっ迫がみられるなか、私たち歯科関係者にできることはあるのでしょうか。
その前に、現在の日本の歯科領域の実態を知る必要があります。
厚生労働省の発表によると、近年、子どものう蝕率の減少が顕著です。
しかし一方で、高齢者の現在歯数の増加に伴う、う蝕率の増加や歯周病者の増加、さらに全身疾患をもつ患者の増加も報告されています。
つまり、超高齢化社会が進むと同時に、この問題も比例していくことになるのです。
そこで解決の糸口になるのが、歯科疾患を起こさないこと。
そう予防です。
従来の歯科治療型の治療スタイルではなく、疾患を起こさない予防型へとシフトさせる必要があります。
そうした背景から、2016年新たに厚生労働省によって「か強診」という制度が設けられました。
今回は、この「か強診」についての現在の状況、そして患者側と歯科医院側にもたらすメリットについて、お話していきます。
まず「か強診」とは、「かかりつけ歯科医療機能強化型歯科診療所」という名称の略語で、2016年度の診療報酬改定にて新設されました。
「か強診」は名前にもあるとおり、かかりつけ歯科医に通院することで、う蝕や歯周病の予防、残存歯数の維持を目指した取り組みを目的にしています。
歯科疾患の予防によって健康な口腔環境が維持されると、個人のQOLが向上するだけでなく、医療費削減にもつながるため、現在では多くの歯科医院で「か強診」が取り入れられているのです。
しかし、まだまだ「か強診」を取り入れていない歯科医院は大多数にのぼります。
2023年4月時点で12,317件の歯科医院で取り入れられていますが、全体の歯科医院数である約68,000件からみても、「か強診」は約18%の歯科医院でしか取り入れられていないのです。
なぜ、「か強診」の届け出件数が伸び悩んでいるかというと、理由は施設基準のハードルがあまりにも高いからだといわれています。
「か強診」を取り入れたくても、施設基準に満たない歯科医院は、そもそも無理であることが実情です。
では、「か強診」を取り入れると、どんなメリットがあるのでしょうか。
患者側、歯科医院側、両方の側面からみていきましょう。
「か強診」が認定されている歯科医院に通うメリットとして、保険適用内でう蝕や歯周病予防のメンテナンスを受けることができます。
これまで歯のクリーニングやフッ素塗布は、保険適用内でおこなうと、3ヶ月以上空ける必要がありました。
しかし「か強診」が認定されると、1ヶ月ごとに受診できるようになったのです。
「3ヶ月も空けたくない」というモチベーションの高い患者にとって、非常に大きな変化であると感じます。
2つ目のメリットは、口腔機能管理や医療安全対策など、しっかりとした研修を受講している歯科医師や歯科衛生士が在籍していること。
表向きでは研修を受けている事実を知ることはできませんが、HPやSNSでうまく告知をすることで、患者の認知度をあげることができます。
患者にとって歯科医院の情報の共有は、安心感につながるといってもいいでしょう。
「か強診」は、歯科医院側にとってもメリットがあります。
1つは、患者に選ばれやすい歯科医院になるということ。
多くの方は、歯科や医科など、かかりつけ医がいる医院へ足を運びがちだと思います。
患者の心理として、安心して信頼のおける医院で診てほしいという思いがあるからです。
「か強診」に認定されている歯科医院では、訪問歯科診療を実施しています。
高齢化が進むと身体的にも衰えがはじまり、いままで歯科医院へ足を運べていたのが、だんだんと難しくなりがちです。
そこで必要とされているのが、訪問歯科診療。
かかりつけ医である歯科医院が訪問診療を実施していれば、患者は普段から診てもらえるという安心感から、さらにその歯科医院の熱烈なファンになりやすいのです。
そして2つ目は、スタッフの知識吸収やモチベーションアップにつながること。
「か強診」の施設基準の1つに、歯周疾患の重症化予防や高齢者の心身の特性、緊急時対応についての研修を受けなくてはならないという項目があります。
主に研修は歯科医師が受けますが、歯周疾患予防に関しては歯科衛生士が主に担当するため、それなりに知識が必要です。
おそらく「か強診」が認定されている歯科医院ですと、歯科衛生士やスタッフ向けに定期的な勉強会を開いていると思われます。
特に予防に特化している歯科衛生士は「か強診」の仕組みを理解する必要があるため、さらに勉強を積み重ね、それによって働くモチベーションがアップしやすいのです。
働くやりがいを感じると、スタッフの定着化にも繋がりやすいといえるでしょう。
いくつかメリットを挙げてきましたが、「か強診」を取り入れるなかで、当然デメリットも存在します。
その1つがコストの発生です。
歯科医院のメリットでも挙げた、スタッフに向けた定期的な勉強会や学会への参加、さらに歯科医師会の会合など…、歯科医師にとって負担は少なくないといえます。
しかし国の対策として「か強診」を取り入れる歯科医院に対し、手厚い診療報酬で応えるという側面もあるため、教育や勉強はこれからも必要な要素だといえるでしょう。
現状「か強診」の歯科医院は全体件数から見ると少ないですが、今後さらに重要度が増していくと思われます。
そして超高齢化社会に応じた取り組みも一層、強くなっていくことでしょう。
歯科医院に求められる歯科治療は時代や環境によって変化していくものですが、私たち歯科医療従事者にとって大事なことは、一貫して患者の健康な口腔を守り続けていくことだと思います。
常に患者側に立った歯科治療を目指し、予防に特化した治療スタイルを築く取り組みが必要になるでしょう。
ORTC歯科ライター
土井 万喜子
<プロフィール>
歯科衛生士18年目
2005年歯科衛生士資格取得後、札幌市内の歯科医院に勤務。
後に歯科メーカー勤務を経て、現在ライターやコンサルタントとして活動中。
多くの歯科衛生士の働きかたやキャリアの相談役を担っている。
<出典>
厚生労働省 歯科医療①かかりつけ歯科医の機能の評価
chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12404000-Hokenkyoku-Iryouka/0000212690.pdf
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