アルバトロス「モームリ」家宅捜索にみる
“代行ビジネス”が抱える法的リスクと、歯科業界への示唆

歯科経営

退職代行サービス「モームリ」を運営する株式会社アルバトロスが、弁護士法違反の疑いで警視庁の家宅捜索を受けた。「非弁行為」──弁護士資格を持たない者が法律事務を有償で行うこと──が問題の焦点である。このニュースは一見、一般ビジネスの話題に見えるが、「代行」や「サポート」を掲げる多くのサービスに共通する構造を持っている。歯科業界でも人材支援や経営サポートなど、類似の仕組みが増えている今、決して無関係とは言えない。

非弁行為とは何か

弁護士法第72条では、弁護士でない者が報酬を得る目的で法律事務を行うことを禁じている。法律事務とは、契約交渉、示談、法的助言などを含む幅広い行為だ。「退職代行」は、労働者の退職意思を本人に代わって企業へ伝えるという単純な行為にとどまる限り合法とされるが、会社側との交渉、未払賃金の請求、有給消化の取り扱いなどに踏み込むと、法律事務に該当する可能性がある。

今回のアルバトロス社は、退職代行を行う中で弁護士を顧客に紹介し、その紹介料を受け取っていた疑いがあると報じられている。「紹介料」「あっせん」「成功報酬」──これらの要素が揃うと、弁護士との“非弁提携”にあたるとされる。法律相談を行わずとも、弁護士との提携を通じて間接的に利益を得ていれば、非弁行為の範疇に含まれる可能性がある。

代行ビジネスの光と影

退職代行は、労働問題への社会的関心の高まりとともに急速に普及した。「言い出せない」「直接やり取りを避けたい」というニーズを掴んだことで、多くのサービスが登場し、SNSでも支持を集めてきた。一方で、法的なグレーゾーンを巡る議論は根強い。「法律を扱わずに問題を解決することはできるのか」「弁護士以外がどこまで介入できるのか」――これらの問いに明確な線引きは難しい。利便性を重視するあまり、法の想定を超えたサービス設計が進んでしまうリスクがある。

これは、歯科業界にも当てはまる構図だ。「医院経営を代行」「採用を支援」「助成金申請サポート」といった業務の中には、実質的に行政手続きや契約代理を行うものもある。その行為が報酬を伴う場合、法律上の制限に抵触する可能性がある。医療業界における「善意の代行」が、気づかぬうちに法的リスクを孕んでしまうのだ。

歯科業界が直面する“非弁リスク”

歯科医院では、人材の採用・退職トラブル、助成金申請、M&A、広告・契約交渉など、士業的知識を要する場面が多い。そのため、専門家以外のサポート業者が増えること自体は自然な流れだ。しかし、問題は「どこまでが支援で、どこからが法律事務なのか」という線引きである。

  • 医院と従業員間のトラブルで交渉を代行する
  • 契約内容を修正し、署名前の法的助言を行う
  • 助成金申請において、行政機関とのやり取りを直接代行する

といった行為は、弁護士または社会保険労務士などの資格が必要になる場合がある。資格を持たない事業者がこれを請け負えば、善意であっても法令違反となるリスクがある。

また、士業との提携を報酬目的で行った場合にも「非弁提携」に問われる可能性がある。広告費や紹介料の名目であっても、実質が法律事務のあっせんと認定されればアウトだ。近年では各種相談プラットフォームでも、提携モデルを巡る審査や修正が相次いでいる。

法令遵守はブランドの信頼性をつくる

歯科医院経営や関連サービスにおいて、「法令遵守」は単なるコンプライアンスではない。それはブランドの信頼そのものである。患者や取引先は、医院や企業がどのような契約・提携関係を築いているかを敏感に見ている。「法に触れないこと」よりも、「法を理解して設計すること」が求められる時代になっている。

具体的には、以下のような実務的対応が重要だ。

  • 業務委託契約書における業務範囲の明確化
  • 士業との提携時における報酬構造の透明化
  • 顧客向け説明文書で「法律」「交渉」「代理」といった表現を安易に使わない

また、スタッフや外部委託先に対する法的リテラシー教育も欠かせない。

ORTCが考える健全な支援モデル

ORTCは、歯科業界における教育・支援・情報発信のプラットフォームとして、「支援」と「代理」を混同しない構造を大切にしている。医療・士業・メディアがそれぞれの専門性を保ちながら協働することが、業界の健全な発展につながる。たとえば、法的判断を要する部分は弁護士や社労士に委ね、メディアは「知るための場」を提供する。それが結果的に、利用者・読者・歯科医療従事者の安心感を生み出す。

退職代行という一つのニュースは、実は「便利さと倫理のバランス」という普遍的なテーマを突きつけている。テクノロジーとアウトソースが進む社会において、サービスと法律の間の境界を正しく理解することが、医療業界の未来を守る鍵になるだろう。

結び

今回のアルバトロス「モームリ」事件は、特定の企業だけの問題ではない。社会全体が「手軽な代行」や「成果報酬型支援」を求める中で、法律の想定を超える新しいサービスが次々に生まれている。そのスピードに法制度が追いついていない現状でこそ、一つひとつの事業者が法令理解を深め、慎重に設計する姿勢が問われている。

歯科業界も同様だ。信頼と倫理を軸にしたサービスづくりが、結果的に患者・スタッフ・経営者のすべてを守る。ORTCは今後も、業界の健全な発展を支えるために、正確な情報と学びの場を提供していく。
ORTC編集部

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