
令和7年12月1日の期中保険収載で、3Dプリント有床義歯が保険診療に入りました。さらに令和8年度診療報酬改定では、準用点数ではなく「3次元プリント有床義歯」として新たな評価が示されています。この記事では、歯科医院が押さえるべき点数、算定要件、施設基準、技工所連携、院内準備を整理します。
この記事で押さえるべき重要ポイント
- 令和7年12月時点では、3Dプリント有床義歯は「M018 有床義歯 2 総義歯 2,420点」の準用として保険導入されました。
- 令和8年度診療報酬改定では、「3次元プリント有床義歯 1顎につき4,000点」が新設評価として示されています。
- 3Dプリント有床義歯は、作業模型を用いた間接法により造形製作される有床義歯として整理されています。
- 院内に装置を置く場合は専任の歯科技工士配置、置かない場合は対応技工所との連携が重要になります。
- 単なる材料変更ではなく、義歯診療・技工所連携・患者説明・請求管理を見直すテーマです。
令和7年12月1日の保険収載で、歯科に何が入ったのか?
歯科領域で最も重要なのは「3Dプリント有床義歯」の保険導入
今回の収載で歯科医院がまず押さえるべきポイントは、3Dプリントによる有床義歯が保険診療に入ったことです。
収載された材料は、クルツァージャパン株式会社の「ディーマ プリント デンチャー ティース」と「ディーマ プリント デンチャー ベース」です。歯冠部と義歯床をそれぞれ光重合レジンで造形し、3Dプリント有床義歯として製作する流れになります。
ただし、ここで誤解してはいけないのは、保険診療上の3Dプリント有床義歯は「従来の義歯臨床を飛ばして、すべてデジタルだけで完結する治療」ではないという点です。令和8年度改定資料では、作業模型で間接法により造形製作された有床義歯として定義されています。
令和8年度改定で、医院への影響はどう変わったのか?
準用点数から「1顎4,000点」の新設評価へ
令和7年12月の期中収載時点では、3Dプリント有床義歯は「M018 有床義歯 2 総義歯 1顎につき2,420点」を準用する扱いでした。
しかし、令和8年度診療報酬改定では、「3次元プリント有床義歯 1顎につき4,000点」が新設評価として示されています。これは、歯科医院にとって重要な変更です。
単に新しい材料が保険に入ったという話ではありません。保険補綴の中で、デジタル製作された有床義歯が独立した評価対象になったという見方ができます。今後、義歯診療、技工所連携、院内説明、請求管理に影響する可能性があります。
| 時点 | 評価の位置づけ | 点数・材料価格 | 医院側の見方 |
|---|---|---|---|
| 令和7年12月1日 期中収載 | M018 有床義歯 2 総義歯の準用 | 2,420点/1顎 歯冠部材料 59円/1歯 義歯床材料 2,026円/1顎 | 制度導入期。材料、診療録記載、対応技工所、装置名、施設要件の確認が必要。 |
| 令和8年度診療報酬改定 | 3次元プリント有床義歯として新設評価 | 4,000点/1顎 | 本格導入を検討する段階。義歯診療の院内フロー、技工連携、患者説明を整備したい。 |
3Dプリント有床義歯の材料価格と算定上のポイント
ディーマ プリント デンチャー ティース
ディーマ プリント デンチャー ティースは、義歯の歯冠部の製作に用いる材料です。令和7年12月の収載資料では、保険償還価格は1歯当たり59円とされています。
定義上は、歯冠用硬質レジンであり、JIS T6517「歯冠用硬質レジン」第3種、つまり光重合型に適合するものとされています。液槽光重合方式3次元プリント有床義歯製作装置を用いて、総義歯の歯冠部を製作するために使用する材料です。
ディーマ プリント デンチャー ベース
ディーマ プリント デンチャー ベースは、義歯床の製作に用いる材料です。令和7年12月の収載資料では、保険償還価格は1顎当たり2,026円とされています。
定義上は、義歯床用アクリル系レジンであり、JIS T6501「義歯床用レジン」タイプ4、つまり光重合レジンに適合するものとされています。
医院が特に注意すべき点
3Dプリント有床義歯では、装置名、技工所名、使用材料、診療録記載、請求時の管理が重要になります。臨床だけでなく、受付・事務・技工所との情報連携まで含めて運用を整える必要があります。
令和7年12月収載時と令和8年度改定後で、何が違うのか?
「上下顎同日装着」の扱いは、時点を分けて理解する
令和7年12月の収載資料では、3次元プリント有床義歯は、再製作を行った場合を除き、上下顎で同日に装着した場合に限り算定できると整理されていました。
一方、令和8年度診療報酬改定では、3次元プリント有床義歯として1顎単位で算定する新設評価が示されています。したがって、記事や院内資料を作る際には、「令和7年12月収載時の準用ルール」と「令和8年度改定後の新設評価」を混同しないことが重要です。
実際の算定では、最新の告示、通知、疑義解釈、地方厚生局の案内を確認してください。ここを曖昧にすると、患者説明だけでなく、請求実務でも混乱が起きます。
3Dプリント有床義歯は、医院運営にどんなメリットがあるのか?
製作工程の標準化と、再現性の向上が期待できる
3Dプリント有床義歯の導入メリットは、「義歯を早く作れる」という単純な話だけではありません。医院経営上は、補綴の技工フローを標準化しやすくなることが大きな意味を持ちます。
厚生労働省資料では、3Dプリント有床義歯について、従来の総義歯と比較して再製作回数や修理回数に有意差はなく、装着後の併発症である潰瘍・疼痛等は有意に小さくなることが示されています。また、従来法の一部をデジタル化することで、製作時間の短縮や安定した精度の義歯供給が報告されています。
設計データを介することで、医院と技工所の間で製作条件や修正内容を共有しやすくなります。
デジタルデータを活用できれば、再製作や修正時の工程を整理しやすくなります。
従来義歯との違い、製作工程、適応範囲を説明できる医院は、患者の納得感を高めやすくなります。
保険義歯の新たな評価をきっかけに、医院内で義歯診療の位置づけを再設計できます。
導入に向けて、医院は何を準備すべきか?
技工所連携・施設基準・臨床フローの3点を整備する
3Dプリント有床義歯は、機械を買えばすぐに始められるものではありません。医院としては、次の3点を優先して確認する必要があります。
① 技工フロー:内製か、3Dプリント対応技工所との連携か
院内に液槽光重合方式3次元プリント有床義歯製作装置を設置する場合は、専任の歯科技工士配置が求められます。一方、院内に装置を設置しない場合は、当該装置を設置している歯科技工所との連携が必要です。
多くの医院では、まずは3Dプリント有床義歯に対応した歯科技工所と連携し、症例数や患者層を見ながら導入判断をするのが現実的です。
② 臨床フロー:印象採得・咬合採得の精度を見直す
3Dプリントと聞くと、デジタル機器の精度に目が行きがちです。しかし、令和8年度改定資料では、3次元プリント有床義歯は作業模型で間接法により造形製作された有床義歯として整理されています。
つまり、医院が強化すべきなのは「スキャン技術だけ」ではありません。義歯臨床の基本である印象採得、咬合採得、仮床試適、装着後調整を院内で標準化することが重要です。
③ 事務・請求体制:届出、診療録、ロット管理を整える
3Dプリント有床義歯では、施設基準への適合、地方厚生局等への届出、診療録への記載、歯科技工所名・装置名の管理、材料名・ロット番号等の保存が重要になります。
院長だけが制度を理解していても、実務は回りません。受付、歯科助手、歯科衛生士、歯科技工所との連携まで含めて、院内マニュアルを作るべき領域です。
施設基準で確認すべきこと
補綴経験3年以上の歯科医師と、装置または技工所連携が要点
令和8年度改定資料では、3次元プリント有床義歯の施設基準として、歯科補綴治療に係る専門の知識及び3年以上の経験を有する歯科医師を1名以上配置していることが示されています。
また、保険医療機関内に液槽光重合方式3次元プリント有床義歯製作装置が設置されている場合は、専任の歯科技工士の配置が必要です。院内に装置がない場合は、当該装置を設置している歯科技工所との連携が求められます。
装置導入、専任歯科技工士、材料管理、設計データ管理、保守体制まで整える必要があります。
対応技工所との連携、装置名・技工所名の確認、納期、再製作対応、技工指示書の運用が重要です。
歯科技工所ベースアップ支援料との関係も確認したい
外注技工を使う医院では、技工所連携の設計がさらに重要になる
令和8年度診療報酬改定では、歯科技工所に所属する歯科技工士の賃上げを支援する観点から、「歯科技工所ベースアップ支援料」も新設されています。
これは3Dプリント有床義歯そのものの点数とは別の論点です。ただし、医院が外注技工を使う場合、技工所との契約、委託費、届出、算定タイミングを整理する必要があります。
3Dプリント有床義歯の導入は、単なる材料変更ではありません。補綴物製作を支える技工所連携の再設計でもあります。
医科の新規保険適用は、歯科診療とどう関係するのか?
直接算定ではなく、高齢者・有病者診療の背景知識として押さえる
令和7年12月1日の収載資料では、医科領域として下肢虚血用ステントや軟骨修復材も示されています。これらは歯科医院で直接算定するものではありません。
ただし、高齢患者や全身疾患を持つ患者を診る歯科医院にとって、医科側でどのような治療が普及しているかを把握することは重要です。問診、服薬確認、医科照会、感染管理、治療予約の判断に関係するためです。
Esprit BTK エベロリムス溶出生体吸収性スキャフォールド
包括的高度慢性下肢虚血疾患患者に対する膝下動脈病変の血管内治療に用いられる医療機器です。歯科で直接算定するものではありませんが、CLTI患者では感染管理、糖尿病、抗血小板薬・抗凝固薬の確認などが重要になります。
軟骨修復材 モチジェル
膝や肘の外傷性軟骨欠損症、離断性骨軟骨炎などに対する整形外科領域の材料です。歯科医院としては、歩行や通院動作に不安のある患者、術後管理中の患者への配慮という観点で把握しておくとよい項目です。
今回追加された臨床検査は、歯科医院に関係あるのか?
歯科で直接算定する検査ではないが、問診・感染対策・医科連携の理解に役立つ
臨床検査では、ID NOW RSウイルス、NF155抗体、CNTN1抗体が示されています。これらも、一般的な歯科診療で直接算定するものではありません。
ID NOW RSウイルス
RSウイルス感染の診断補助として、鼻腔ぬぐい液中のRSウイルスRNAをNEAR法で検出する検査です。小児患者が多い医院では、発熱、咳、感染症流行期の予約対応や受診延期の判断に関連する背景知識として有用です。
NF155抗体・CNTN1抗体
慢性炎症性脱髄性多発神経炎や自己免疫性ノドパチーの診断補助に関わる検査です。歯科で直接使う検査ではありませんが、しびれ、筋力低下、歩行障害などを持つ高齢患者の全身背景を理解する上で参考になります。
医院としての結論
3Dプリント有床義歯は「設備導入」ではなく「補綴体制の再設計」として考える
3Dプリント有床義歯は、今後の保険補綴において重要なテーマになります。ただし、焦って機器を導入するよりも、まずは対応技工所との連携、院内の印象採得・咬合採得の標準化、施設基準の確認、診療録・請求管理の整備から始めるべきです。
院長の判断として重要なのは、「うちの医院で内製化すべきか」だけではありません。まずは「義歯診療を医院の中でどう位置づけるか」を決めることです。
高齢患者が増える地域では、義歯診療は今後も重要です。3Dプリント有床義歯の保険評価は、義歯を“古い治療”として捉えるのではなく、デジタル化と技工連携によって再構築するきっかけになります。
この記事のまとめFAQ
3Dプリント有床義歯です。令和7年12月の保険導入に加え、令和8年度改定で1顎につき4,000点の新設評価が示されたため、義歯診療・技工連携・施設基準の見直しが必要になります。
必ずしも口腔内スキャナー前提ではありません。令和8年度改定資料では、作業模型で間接法により造形製作された有床義歯として整理されています。
院内に装置を置かない場合でも、当該装置を設置している歯科技工所との連携が確保されていれば導入を検討できます。多くの医院では、まず対応技工所との連携から始めるのが現実的です。
補綴経験3年以上の歯科医師配置、技工所連携、施設基準の届出、診療録への記載、使用材料の管理、患者説明資料の整備を確認してください。
直接算定するものではありません。ただし、高齢患者・有病者を診る歯科医院では、問診、服薬確認、感染対策、医科照会の背景知識として把握しておく価値があります。
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