インビザライン(Invisalign®)治療では、多くの先生が最初にクリンチェック(ClinCheck®)を確認します。
しかし、本当に大切なのは、「どんな噛み合わせタイプ(アングル分類)の症例なのか」を見極めたうえで、その前提に合ったクリンチェックを組めているかどうかです。
I級・II級・III級というアングル分類は、最初に判断するための「設計の土台」になります。
・どれくらい難しい症例なのか
・主訴の改善は可能か
・どこまで動かせるのか
・顎間ゴム(エラスティック)は必要か
この前提を無視してただクリンチェック上で綺麗に歯だけを並べると、追加アライナーが増え、治療が長引き、結果的に経営リスクにもつながります。
では実際に、アングル分類をどのようにクリンチェックに落とし込み、治療設計と経営の両方に活かしていけばよいのでしょうか。
ポイントは、「この症例はI級なのか、II級なのか、III級なのか」を最初に明確にします。その分類ごとに治療ゴール・難易度・リスク・説明内容を整理したうえでクリンチェックを組み立てていくことです。
ここからは、まずアングル分類ごとの特徴を整理しながら、クリンチェック上でどこをどう見るべきか、臨床と経営の両面から具体的に解説していきます。
経営戦略としてのアングル分類の活用

アングル分類って「咬合の教科書に出てくるやつでしょ?」と思われがちですが、経営視点で見ると、実はとんでもなく重要な収益の分岐点になります。
インビザラインの難易度・治療期間・追加アライナーの発生リスクは、この分類ひとつで大きく変わります。
院長にとってアングル分類は、症例の利益率がほぼ決まる入口です。
ORTCでは、アングル分類に分けて、公開クリンチェックセミナーも行っておりますので、より具体的解決策を求めたい院長先生はこちらからご覧ください。

処方書提出後の修正 アングルI級 中程度叢生、側切歯の交叉咬合(クロスバイト)改善ケース
講師:医療法人UDC 理事長総合治療ディレクター 植田憲太郎
アングル分類で「標準治療期間」と「難症例ライン」を決める
アングル分類は、治療期間の予測精度を高めるための最も実務的な指標です。
I級は標準症例として扱いやすく、歯の移動方向も複雑になりにくいため、治療期間は比較的読みやすくなります。
一方で、II級・III級は明確に「追加アライナー」「治療延長」のリスクが高い症例です。前後的な不正が大きいため、計画どおりに進みにくく、治療後半で再設計が必要になるケースも珍しくありません。
そのため医院としては、最初の段階から期間を固定せず、必ず幅で説明することが重要です。
・I級:標準期間内で完結する前提(例:12〜18ヶ月)
・II級・III級:延長リスク込みで広めに設定(例:18〜30ヶ月)
この「幅」の設計が、治療延長時のトラブル防止と、インフォームドコンセントの質を左右します。
症例別に「費用設定」をどう考えるか
費用設定は、アングル分類を基準に分けることで初めて採算が取れる設計になります。
とくに問題になるのが、II級・III級の難症例を I級と同じ一律価格にしてしまうケースです。
II級・III級は、
・歯の移動量が増える
・アンカレッジの調整が必要
・追加アライナーの発生率が高い
という構造的な理由から、ドクターの作業時間もスタッフ介入量もI級より必ず増えます。
一律料金にしてしまうと、医院側が負担する再設計コスト・チェアタイム・スタッフ人件費が吸収しきれない赤字要因になります。
そのため、医院としては以下のような料金設計が理想です。
・I級:標準費用(移動量が少なく予測が立てやすい)
・II級・III級:難易度加算 or 治療延長リスクを含む価格帯に設定
また、避けて通れないのが、追加アライナー・再設計コストの扱いです。
ここを明確に設けず「無料対応」を続けると、症例が増えるほど利益率が下がります。
具体的には、
・3回目以降の追加アライナーは調整料を設定する
・再設計に伴うチェアタイムを別途管理料として計上する
・ゴールの基準値を事前に患者と共有し、達成条件を明文化する
といった仕組みを作ることで、難症例による赤字化を防ぎ、利益を守りながら品質も維持できます。
アングル分類を使ったインフォームドコンセント
アングル分類を用いた説明は、患者の理解度を一段階引き上げ、治療後のトラブル防止に直結します。
重要なのが、「どこまで動くか」「どこから先は外科的領域になるか」を、最初の段階で明確に示すことです。
I級・II級・III級という分類は、単なる咬合の名前ではなく、
・移動できる範囲(歯軸の補正で対応可能か)
・顎位のズレが大きく外科的介入が必要な領域か
を判断する治療選択の境界線でもあります。
これを最初から患者に共有することで、「目指せるゴール」と「現実的な限界」、「歯科矯正で解決できる部分」と「外科矯正が必要なケース」を誤解なく伝えられます。
その結果、インフォームドコンセントの質が上がり、下記のような経営的メリットにもつながります。
・契約率アップ:患者が「自分に合った治療だ」と納得しやすくなる
・クレーム減少:後半で「思っていたのと違う」が起こりにくくなる
・早期の治療終了:計画の理解度が高いほど、患者の協力度(装着時間・顎間ゴムの使用)が上がる
・自費率の安定:難症例でも「適正な治療」「適正な費用」と受け入れられやすくなる
結局のところ、アングル分類を用いた説明は、「患者の期待値コントロール=経営の安定化」そのものです。
クリンチェックの診断力だけでなく、医院の収益構造まで支える武器になります。
クリンチェックにアングル分類をどう落とし込むか

アングル分類は、クリンチェックを作成するうえで最初に決めるべき設計の根拠です。
I級・II級・III級のどれに該当するかで、必要な移動方向・移動量・アンカレッジ設定・治療期間の予測精度が大きく変わります。
クリンチェックへ落とし込む際の基本手順は以下の3ステップです。
①前後的ズレ(サジタル量)を定量化する
犬歯・大臼歯の関係から、クラスのズレをどれだけI級方向へ近づけるかというゴール幅として設定する。
②分類に応じて、使用する力学・装置の優先度を変える
I級では歯軸調整やわずかな位置補正が中心だが、II級・III級では遠心移動・前方移動・IPR・アンカレッジ強化・顎間ゴムなど必要ツールが変わる。
③追加アライナー発生リスクを事前に見込む
II級・III級は計画通り動きにくいため、追加発生を前提に「どこにボトルネックが出るか」を設計段階で想定する。
このアングル分類に合わせたクリンチェック構築ができると、治療の読みが安定し、患者説明・スタッフ教育・経営計画まで一貫性のある運用が可能になります。
分類をどのように“治療ゴール”へ落とし込むかを具体的に解説します。
治療ゴールの明確化
アングル分類を活用する最大の意義は、治療ゴールを数値化して言語化できることです。
クリンチェックでは、以下のポイントを明確にすることで、治療計画の精度が一気に上がります。
①「どの程度I級に近づけるか」を設定する
完全なI級を目指すのか、顎位や軟組織を考慮して許容範囲のI級にするのかを決める。これにより、移動量・期間・必要な処置が確定する。
②前後的な補正量をクリンチェック上で見える化する
例)II級なら「上顎遠心3mm」「下顎前方8mm」など具体的な数値を決めておく。
③患者にも「どこまで可能か」「どこからが限界か」を言語化して共有する
治療ゴールを曖昧にせず、「できること/できないこと」「動く範囲/外科になる境界」を初診で説明すると、認識のズレが起こらない。
ゴールが明確な症例は、
・追加アライナーが減る
・治療期間がブレない
・患者の協力度(装着時間・顎間ゴム)が高まる
という治療の成功率を押し上げる効果があります。
難易度とリスク管理
II級・III級症例では、アングル分類がそのままリスクマップとして機能します。クリンチェックの段階で以下を押さえておくことで、治療後半の混乱や追加アライナーの乱発を防げます。
①アンカレッジコントロールを強化する
前後のズレが大きいほど、歯が意図しない方向へ傾きやすくなります。そのため、 TADの併用や歯列全体でのアンカレッジ管理、遠心移動時の歯軸の倒れ込みの監視が必須になります。
②顎間ゴムの使用計画を最初から組み込む
追加アライナーに入ってから「ゴムを追加」は遅いです。最初のクリンチェック段階で、いつから使用するか・どれくらいの期間続けるか・どの方向に効果を出すかを決めておきましょう。
③追加アライナーが出る予測ポイントを把握する
・II級:上顎臼歯の遠心移動が進みにくい
・III級:下顎前方移動で前歯の傾斜が起こりやすい
→ これを想定し、計画に遊びを持たせておく。
難症例ほど、事前にリスクを共有し、計画に余裕を持たせ、スタッフに「何を見ればいいか」を共有することで、治療の安定性と医院の収益両方を守れます。
スタッフ教育としてのアングル分類の活用

アングル分類をスタッフが理解している医院は、治療計画から日々のチェックまでの情報の伝達速度と精度が大きく変わります。
I級・II級・III級の違いを把握しているだけで、初診カウンセリングの質、アライナーの適合チェック、アタッチメント管理、顎間ゴムの指導の正確性が向上し、結果としてドクターの治療効率が跳ね上がるからです。
アングル分類は、ドクターのためだけの診断ツールではなく、「スタッフ全員が共通言語として使える医院の診療インフラ」です。
ここからは、その具体的な効果を3つの視点で解説します。
初診時の問診・写真の質が変わる
アングル分類を理解したスタッフは、初診時に「どの情報を集めれば治療計画に直結するか」を把握できています。II級・III級の可能性がある患者では、前後的なズレを確認するための犬歯・大臼歯の関係、スマイルライン、側貌など、診断に不可欠な情報を意図して集められます。
結果として、撮影にムラがなくなり、ドクターが「撮り直し」を指示する場面が大幅に減り、診断の資料が揃った状態でスタートできるようになります。
問診においても、単なるヒアリングではなく、過蓋咬合・開咬・顎関節症状など、治療難易度に影響する背景因子を初期段階で拾えるようになります。これにより、初診説明がスムーズになり、治療方針の決定までの時間も短縮されます。
治療中のチェック精度が変わる
治療が進むにつれ、症例の難易度によって注視すべきポイントは変わります。I級症例では、アタッチメントの状態やアライナーの浮きなど、基本的なチェックの精度が向上します。一方で、II級・III級症例では、遠心移動の進み具合や歯軸の倒れ込み、顎間ゴムの使用状況といった難症例特有のリスクサインを早期に発見できるようになります。
スタッフが分類を理解している医院では、問題が小さい段階で修正できるため、追加アライナーの乱発を防ぎ、計画通りのスムーズな治療進行が可能になります。ドクターが気づく前に小さなズレを拾えるスタッフがいることで、治療の安定性は劇的に向上します。
結果としてドクターの負担がどう減るか
初診の資料精度が高まり、治療中の異常検知も早くなるため、ドクターの負担は大きく軽減されます。クリンチェック作成の前段階が整っていることで、ドクターは診断に集中できる環境になり、修正業務や繰り返し説明の必要が減少します。
さらに、スタッフが治療の背景となる分類を理解していると、患者への説明の一部を任せても齟齬が出にくく、クレームや誤解の発生も抑えられます。「なぜ動きにくいのか」「なぜ顎間ゴムが必要なのか」といった難しい説明も、スタッフが患者に寄り添った形で補足できるため、ドクターが呼ばれる頻度すら変わってきます。
最終的に、スタッフ教育としてのアングル分類の理解は、医院全体の診療効率を底上げする経営投資そのものになります。
まとめ
アングル分類は、単なる咬合の分類ではなく、インビザライン治療の診断精度・治療効率・経営の安定性を左右する「医院運営の基盤」です。
クリンチェックにどう落とし込み、治療ゴールをどのように設定し、難症例のリスクをどう管理するか、このポイントが大事になってきます。その判断が、この分類を正しく理解しているかどうかで変わります。
さらに、スタッフがアングル分類を共通言語として扱えるようになると、初診資料の質は向上し、治療中のチェック精度があがり、ドクターの負担は大きく減少します。結果的に、追加アライナーの減少、治療期間の短縮、インフォームドコンセントの適正化へとつながり、契約率や自費率の安定といった経営効果も生まれます。
つまりアングル分類は、「治療の質」と「医院の利益」の両方を支える最もシンプルで強力な指標です。
より深く学びたい院長へ、ORTCでは公開クリンチェックのセミナーをしております。悩んでいる症例のクリンチェックの学習ができますので、ぜひご覧ください。

宮島悠旗先生の公開クリンチェック1 アングルII級、主訴が八重歯の症例
講師:宮島悠旗ブライトオーソドンティクス 代表 矯正医 宮島悠旗
本記事で得た視点を、明日の診療と医院運営にぜひ活かしてみてください。
Q&A
Q1:アングル分類は、インビザラインでどこまで治せるかの目安になりますか?
A1:なります。アングルI級は歯列不正主体ならインビザライン単独で完結しやすい一方、II級・III級では骨格的不調和の程度により「インビザライン単独での限界」と「補助装置や外科併用が必要なライン」が変わります。分類を踏まえて「どこまでをインビザラインで責任を持つか」を明確にすることが重要です。
Q2:II級・III級症例で、インビザライン単独か補助装置併用か迷うときの判断ポイントは?
A2:キーになるのは「骨格性か、歯性か」「下顎の位置と成長余地」「遠心移動量の現実性」です。クリンチェック上で大きな遠心移動や前歯の過度なトルクコントロールが必要な場合は、顎間ゴム・TAD・固定装置併用を前提に計画を組む方が安全です。迷うケースほど、アングル分類と側貌評価を改めて見直してください。
Q3:クリンチェック画面上で、アングル分類はどこまで意識してチェックすべき?
A3:「大臼歯・犬歯関係が最終的にどの分類ポジションなのか」は必須で確認したいポイントです。前歯のアライメントだけ整っていても、大臼歯・犬歯がII級・III級のまま残っていれば、長期安定性や機能面のリスクが残ります。サジタル方向(前後方向)の関係を、必ずゴール時シミュレーションで確認する習慣をつけましょう。
Q4:スタッフ教育でアングル分類を教える場合、どのレベルまで理解してもらえば十分ですか?
A4:DHや勤務医には、インビザラインカウンセリングを行うのであれば、「難症例(II級・III級)は治療期間が延びやすい」「説明内容が変わる」といった経営的な意味付けまで共有できると良いでしょう。
Q5:追加アライナーが多発する症例には、どんなクリンチェック上の共通点がありますか?
A5:典型的なのは、アングル分類を無視した歯だけ動かす設計です。II級・III級症例で、アンカレッジ不足のまま大きな遠心移動を指示していたり、顎間ゴムを想定していない計画は、現実の装着状況と乖離しやすく追加アライナーが増えます。「この分類の症例をインビザラインで動かすには、どんな現実的条件が必要か?」を先に決め、その条件込みでクリンチェックを組むことが、追加アライナー対策として最も効果的です。
歯科衛生士ライター 原田
歯科医療の現場で役立つ実践的な知識を届けるORTC

ORTCは「笑顔の役に立つ」を理念に、歯科界の知識を共有する場を目指しています。歯科医療の現場で役立つ最新の知識と技術を提供することで、臨床と経営の両面からクリニックの成長を支援します。最先端の技術解説や経営戦略に特化した情報を集約し、歯科医療の現場での成果を最大化。自己成長を追求するためのコンテンツをぜひご活用ください。
無料会員登録
無料動画の視聴、有料動画のレンタルが可能です。歯科業界についてのオンライン・オフラインセミナーへの参加が可能となります。
ORTCPRIME
月額5500円で、 ORTC内のすべての動画を見放題に。臨床の現場に役立つ最新の技術解説や、歯科医院経営の成功戦略を網羅した特別コンテンツをご利用いただけます。 歯科業界の方へ効率的に知識を深めていただける内容です。
ORTC動画一覧
ORTCセミナー一覧
まずは無料会員登録
こちらのリンクより会員登録ページへお進みください。
会員登録はこちら
ORTCPRIMEへのアップグレードも簡単!
登録後は「マイページ」から、ORTCPRIMEにいつでもアップグレード可能です。