歯科診療において、抗生物質の使用は感染症の予防や治療に欠かせない重要な役割を果たしています。
歯周病や抜歯後の感染、インプラント手術など、様々な歯科治療の場面で抗生物質が処方されますよね。
しかし、その使用には適切な判断と注意が必要です。
本記事では、歯科で使用される抗生物質の種類と、その使用における注意点について詳しく解説します。
抗生物質とは
抗生物質は、細菌の増殖を抑制または殺菌する薬剤です。
歯科治療において、これらは主に口腔内の感染症の予防や治療に使用されます。
歯科での使用目的
歯科診療での抗生物質の主な使用目的は以下の通りです。
1. 感染予防:抜歯やインプラント手術など、侵襲的な処置の前後
2. 既存の感染症の治療:歯周病や根尖性歯周炎などの治療
3. 術後感染の予防:手術後の二次感染を防ぐため
このように、歯科医療での抗生物質は欠かせないものとなっています。
一般的な適応症
歯科で抗生物質が処方される一般的な状況には、以下のようなものがあります。
1.急性歯周炎
2.顎骨周囲炎
3.歯槽骨炎
4.術後感染予防
5.根尖性歯周炎の急性発作
よく聞く症状からそうでないものまでさまざまでしょう。
これらの症状に抗生物質は活用されているのです。
歯科で使用される主な抗生物質の種類
歯科で使用される抗生物質の種類は主に以下のとおりです。
・ペニシリン系
・セファロスポリン系
・マクロライド系
・テトラサイクリン系
・ キノロン系
詳しくは以下で解説していますのでご参考ください。
ペニシリン系
ペニシリン系抗生物質は、歯科で最も一般的に使用される抗生物質の一つです。
アモキシシリン
特徴:広域スペクトルを持ち、口腔内細菌に対して高い効果を示す
用法・用量:成人には通常1回250mg〜500mgを1日3〜4回経口投与
商品名:サワシリン、パセトシン
アンピシリン
特徴:アモキシシリンと同様の効果を持つが、経口吸収率がやや劣る
用法・用量:成人には通常1回250mg〜500mgを1日4回経口投与
商品名:ビクシリン
セファロスポリン系
セファロスポリン系抗生物質は、ペニシリン系に次いで歯科で頻繁に使用されます。
セファレキシン
特徴:第一世代セファロスポリン系で、グラム陽性菌に強い効果を示す
用法・用量:成人には通常1回250mg〜500mgを1日4回経口投与
商品名:ケフレックス、ラリキシン
セフジニル
特徴:第三世代セファロスポリン系で、より広範囲の細菌に効果を示す
用法・用量:成人には通常1回100mgを1日3回経口投与
商品名:セフゾン
マクロライド系
マクロライド系抗生物質は、ペニシリンアレルギーの患者や、特定の感染症に対して使用されます。
アジスロマイシン
特徴:長時間作用型で、1日1回の投与で済む
用法・用量:成人には500mgを1日1回、3日間経口投与
商品名:ジスロマック
クラリスロマイシン
特徴:広域スペクトルを持ち、組織移行性が高い
用法・用量:成人には1回200mgを1日2回経口投与
商品名:クラリス、クラリシッド
テトラサイクリン系
テトラサイクリン系抗生物質は、主に歯周病治療に使用されます。
ドキシサイクリン
特徴:歯周病原菌に対して効果が高く、抗炎症作用も持つ
用法・用量:成人には1回100mgを1日1回経口投与
商品名:ビブラマイシン
ミノサイクリン
特徴:組織移行性が高く、局所投与も可能
用法・用量:成人には1回100mgを1日2回経口投与
商品名:ミノマイシン
メトロニダゾール
特徴:嫌気性菌に特に効果が高い
用法・用量:成人には1回250mgを1日3回経口投与
商品名:フラジール
キノロン系
キノロン系抗生物質は、広域スペクトルを持ち、重症感染症に使用されることがあります。
レボフロキサシン
特徴:第三世代キノロン系で、グラム陽性菌とグラム陰性菌の両方に効果がある
用法・用量:成人には1回500mgを1日1回経口投与
商品名:クラビット
歯科抗生物質の選択基準
歯科医師は以下の要因を考慮して、適切な抗生物質を選択し患者様に処方します。
1. 感染の種類と重症度:急性か慢性か、局所感染か全身感染かなど
2. 患者の年齢と全身状態:小児や高齢者、妊婦、腎機能低下患者などへの配慮
3. アレルギー歴:特にペニシリンアレルギーの有無
4. 薬剤耐性の考慮:地域の耐性菌の傾向や患者の抗生物質使用歴
適切な抗生物質の選択には、歯科医師の専門的な判断が不可欠です。
患者様は自身の医療歴や服用中の薬剤について、歯科医師に正確に伝えることが重要になります。
歯科医院にかかる際には、お薬手帳の持参を忘れないようにしましょう。
抗生物質使用の注意点
ここでは、抗生物質のを使用するにあたって注意したい点を紹介します。
副作用
抗生物質の使用には様々な副作用のリスクがあります。
・消化器症状:下痢、腹痛、嘔気など
・アレルギー反応:発疹、痒み、まれに重篤なアナフィラキシーショック
・菌交代症:正常な腸内細菌叢のバランスが崩れることによる症状
これらの副作用が現れた場合は、すぐに歯科医師や医師に相談することが重要です。
耐性菌の問題
抗生物質の不適切な使用は、耐性菌の発生を促進する可能性があります。
・耐性菌発生のメカニズム:抗生物質に対する耐性を持つ細菌が生き残り、増殖する
・予防のための適切な使用:処方された用法・用量を守り、不必要な使用を避ける
相互作用
抗生物質は他の薬剤や食品と相互作用を起こす可能性があります。
・他の薬剤との相互作用:テトラサイクリン系抗生物質は制酸剤や鉄剤と併用すると吸収が低下
・食品との相互作用:一部の抗生物質はアルコールと併用すると副作用のリスクが高まる
適切な抗生物質の使用方法
適切な抗生物質の使用方法は以下のものが挙げられます。
1. 処方された通りの服用:用法・用量を守り、指示された期間全てを服用する
2. 治療完了の重要性:症状が改善しても、処方された期間全てを服用することが重要
3. 残薬の適切な処理:余った薬は自己判断で使用せず、適切に処分する
患者様は、抗生物質の服用について不明点があれば、必ず歯科医師や薬剤師に相談してくださいね。
まとめ
歯科における抗生物質の使用は、感染症の予防と治療に重要な役割を果たしています。
しかし、その適切な使用には専門的な知識と慎重な判断が必要です。
患者様と歯科医師のコミュニケーションを通して、適切な抗生物質療法を行うことが、効果的な治療と副作用のリスク低減につながります。
抗生物質に関する疑問や不安がある場合は、躊躇せずに歯科医師に相談しましょう!
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ここまでお読みくださりありがとうございました。
編集・執筆
歯科専門ライター 萩原 すう