全世界で蔓延している病気、それは私たち歯科医療者には馴染み深い「歯周病」です。
歯周病は2001年に「全世界で最も蔓延している病気は歯周病である。地球上を見渡してもこの病気に冒されていない人間は数えるほどしかいない。」としてギネスブックに記載され、ギネス世界記録に認定されました。
歯周病は日本でも蔓延しており、現在30代以上の3人に1人が歯周病に罹患していると言われています。
また、公益社団法人8020財団が平成30年に行なった「第2回永久歯の抜歯原因調査報告」(※1)によれば、抜歯の主原因別の割合で最も多かったのは歯周病で37.1%、次いでう蝕が29.2%、破折が17.8%、矯正が1.9%でした。
この結果からも、歯周病が今現在私たち人類を脅かしていることが分かります。
また歯周病は口腔内だけの問題ではなく、全身に悪影響を及ぼすことも昨今の研究により明らかになってきています。
歯周病菌は腫れた歯肉から血管内へ侵入し血流に乗って全身へと運ばれます。
これにより、心疾患や脳梗塞、糖尿病、誤嚥性肺炎、低体重児出産や早産など様々な疾患を引き起こしてしまうのです。
このような重大な疾患を引き起こしてしまわないようお口の中から体全体の健康を支えていくことが、今、私たち歯科衛生士に求められています。
今回は歯周病について再確認し、歯科衛生士としてどのようなアプローチができるのか考えていきましょう。
<この記事でわかること>
・歯周病の原因とリスクファクターの再確認
・診査・診断・歯科衛生士が押さえるべきポイント
・非外科的治療(初期治療)での役割
・メインテナンス/SPTの最新エビデンス
ぜひご覧ください。
2、歯周病の原因とリスクファクターの再確認

2−1 歯周病ってどんな病気?
歯周病が細菌による感染症であり、その病状として歯茎からの出血や歯周ポケットの増加、そして歯槽骨の吸収が起こることはご存知のことと思います。
では歯周病の原因とは何なのでしょうか?
答えは簡単で、バイオフィルム!…と思った方は、惜しい!あともう一歩です。
以前まではバイオフィルムこそが悪の根源であり、それらを機械的に除去すれば良いとされていました。
ですが、今では重要なのはこのバイオフィルムの病原性であると考えられています。
歯周病などの菌が住み着いているバイオフィルムの持つ病原性と、歯周組織の抵抗性というバランスが崩れること、これが歯周病が起こる原因なのです。
バイオフィルムは歯の表面に細菌が集まり、そこから時間をかけて作られていきます。
歯磨き後8時間たった頃から歯の表面に細菌が付着して仲間を増やしていき、そこから48時間後には急速に菌が成長し、72時間後には完全なバイオフィルムとなります。
成熟したバイオフィルムは歯磨きだけでは落とし切ることが出来ません。また、抗菌剤もバイオフィルムの中には通ることは不可能です。
このため、歯科衛生士による機械的なクリーニングで落とす必要があります。
しかし、バイオフィルムは定期的に除去したとしてもその後3~4ヶ月で再形成されてしまいます。 そのため、3~4ヶ月の感覚で定期検診を行いバイオフィルムを行うのです。
2−2歯周病のリスクファクターってなに?

歯周病の発生には4つの危険因子が関わっています。
以下で詳しく解説します。
①微生物因子(歯周病菌)
バイオフィルムの中の歯周病の原因となる微生物(歯周病菌)の存在があります。
②環境因子
環境分子は以下の9点が挙げられます。
・喫煙
・口の中の清掃不良
・歯周ポケットの深さ
・プラークの付着量
・ストレス
・睡眠不足
・食生活
・不適合補綴物
・口呼吸による乾燥
中でも喫煙は歯周病を悪化させる大きなリスクファクターです。喫煙者は非喫煙者に比べて2~8倍歯周病に罹患しやすいことが報告されています。
タバコに含まれるニコチンは血管を収縮させ、血流を悪化させ酸素や栄養の供給を低下させます。
これにより歯周病細菌に対する抵抗力が低下し、歯周病を重症化させます。
③宿主因子
宿主因子は以下の6点が挙げられます。
・年齢
・人種
・歯の本数
・糖尿病
・白血球機能
・遺伝的要因
よく歯を磨かなくても虫歯や歯周病にかかりにくいラッキーな方が成人の10%いることが分かっています。
その理由の一つには、生まれつきの免疫機能の違いがあります。体を外敵から守る白血球などの活動性が高いなど、免疫力が高いことから歯周病に対しても抵抗性を持っていると考えられます。
糖尿病になると全身の免疫力が低下してしまいます。糖尿病患者ははそうでない人に比べると、歯周病の発症リスクが2~4倍になるという研究データもあります。
④咬合因子(環境因子に含む場合もあり)
歯周病に罹患している人が、外傷性咬合(過度な咬合力や側方力などの異常な力)や歯ぎしり、歯の食いしばりなどで歯に強い負担がかかると歯槽骨の吸収速度が上がってしまうことが分かっています。
これらの危険因子が重なることで歯周病発症の危険性が高まります。
歯磨きなどの口腔ケアを怠った状態に加えて、ストレスから喫煙量が増えた、睡眠不足で体調不良になった…となれば、宿主(体)の免疫力が下がり、歯周病が発症し、そして悪化してしまいます。
このようなことにならないよう、患者さんに歯周病について説明すること、メンテナンスで歯周病菌をコントロールすることが大切です。
3、診査・診断・歯科衛生士が押さえるべきポイント

前述した危険因子を読んでいただくと分かるように、歯周病治療で確認すべきことはお口の中のことだけではありません。
全身の状態だけでなく、その方の生活背景なども診査・診断の際には必ず確認しておきましょう。
特に喫煙と糖尿病については必ずチェックしておき、それぞれ歯周病と深い関わりにあることを患者さんに説明しましょう。
歯周病の状態を確認するために歯周病検査を行いポケットの深さを確認しますが、この時出血の量や状態について確認することも大切です。
歯周病菌はヘム鉄を栄養素として増殖します。ですから出血しているということはつまり、今現在炎症が起こっているということだけでなく歯周病に対してエサを与えいるということに他なりません。
歯周病検査の説明を行う時には深さだけでなく出血量についても説明してみてくださいね。
レントゲンを撮ると骨吸収の程度が分かります。垂直性の骨欠損が見られる場合には噛み合わせによる危険因子が関わっていることが予測できますから、歯科医師と共に歯周病治療のための咬合へのアプローチのタイミングを考えることが必要になります。
4、非外科的治療(初期治療)での役割

歯周病初期治療ではまず縁上プラークを除去し、縁下へとアプローチしていきます。
SRPのテクニックを磨いて縁下歯石を徹底的に除去することはもちろん重要なことですが、ここで大事なのは患者さんへ行う歯周病教育です。
術者がどれだけSRPを行おうとも、患者さんが口腔ケアを行わずにいれば歯茎の腫れや出血は治まらず歯周病治療は成功しません。
このため初期治療において重要なのは、患者さんに治療参加を促すこと、患者さん自身に「歯周病を治療するリーダーになってもらうこと」が最も重要なのです。
縁下へのアプローチはもちろん患者さんには行うことができません。
しかしながら、縁上へのアプローチ、つまり歯ブラシ・フロス・歯間ブラシなどを使ってのお口のケアは患者さんが自分で行うことができます。
縁下歯石など歯周ポケットの中に潜む細菌は嫌気性であり、縁上プラークが溜まっていると嫌気性の状況が出来上がってしまうためにその活動性を増長させてしまいます。
「歯肉縁上のケアは患者さんが行うセルフケア、歯肉縁下のケアは術者が行うプロケアで治療してく」という明確な役割分担を患者さんに説明することで患者さんの治療参加を促し、ご自身で環境因子を整えてもらえるよう口腔清掃指導を行うことが歯周病治療成功の大切なカギなのです。
5、メインテナンス/SPTの最新エビデンス

歯周病治療を進めて、メインテナンス・SPT(サポーティブぺリオドンタルセラピー/歯周病安定期治療)へ進んだ頃患者さんから聞かれる質問で多いものが「いつになったら治療は終わるの?」という言葉です。
皆さんならこの質問になんと答えますか?
歯周病は完治する病気ではありません。歯周病は歯周病菌による感染症であり、慢性の病気です。
口腔内に住み着いた歯周病細菌を全て滅菌するようなことはできません。
このため、歯周病治療は病状を安定させること、つまり炎症や出血を起こさない(再発させない)ようコントロールしていくことが大切なのです。
歯周病の治療後の再評価検査で病状が安定したと判定された場合、SPTへ移行します。
SPTは、以下の点を目的としています。
⑴病状安定部位を維持、あるいは治癒させる
⑵新たな歯周病発症部位の早期発見
⑶良好な歯周組織環境の維持
1991年に行われた研究では重度歯周炎の患者に歯周外科治療を実施い、3~6ヶ月ごとにメンテナンスを行った者とメンテナンスを行わなかった者とを比較し、10年後の喪失歯数に著しい差が生じたことが報告されています。(※2)
歯周病を再発させないよう守っていくことはもちろん、患者さんにも歯周病という病気について理解してもらえるよう説明し、継続的な口腔ケアの大切さを伝えることが重要です。
とはいえ治療期間が長びけばどうしてもモチベーションは下がってしまいます。
歯周病検査の結果をメンテナンス時のものだけでなく以前と比べるようにして状態が安定していることを伝えたり、口腔内写真を撮って初診時と比べるなど視覚的に訴えることで患者さんのモチベーションを保つことができるよう工夫しながらお声かけしていきましょう。
まとめ
歯周病治療を行いその病状を安定させることは、私たち歯科衛生士に課せられた大切な使命です。
以前までは歯科と医科は別枠として分けられていましたが、歯周病が全身に影響することは今では大きく広まり、内科との連携も必須となってきました。
全身疾患とのつながりを分かりやすく説明できるようにしておくことで、患者さんに歯周病を「他人事」ではなく「自分事」として理解してもらいやすくなります。
改めて歯周病について理解し、その方にあったTBIや声かけに生かしてみてくださいね。
歯科衛生士ライター:moe
※1公益社団法人8020財団「第2回永久歯の抜歯原因調査報告」より引用 https://www.8020zaidan.or.jp/pdf/Tooth-extraction_investigation-report-2nd.pdf
※2厚生省働科学研究成果データベースより引用 https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2012/123151/201231090B/201231090B0007.pdf
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