舌足らずの押さえておくべきポイント

歯科知識, 歯科衛生士, 歯科医

「舌足らず」という言葉は、主に発音の不明瞭さを指し、特に「サ行」や「ラ行」などの音がはっきりしない状態を意味します。子どもが「さかな」を「たかな」、「きりん」を「ちりん」のように発音するケースなどが代表的です。

 

しかし、舌足らずの問題は単なる発音の不具合に留まらず、社会的なコミュニケーションや生活の質(QOL)に大きく影響を及ぼします。 聞き取りずらい、聞き取ってもらえないことは、生活する上で大きなストレスとなります。 

 

また、高齢者の場合、発音の問題だけでなく、嚥下機能(飲み込み)の低下が原因で誤嚥や窒息のリスクが高まることもあります。舌足らずの症状を理解し、早期に発見・改善することで、患者の健康と自信を支えることが可能です。

 

舌足らずの原因や評価方法、改善策、患者への説明のコツを紹介し、現場で活かせる具体的なケアのポイントをお伝えしていきます。

 

「舌足らず」の原因とは

舌足らずの原因は先天的なものと後天的なものに分けられます。

 

先天的な要因
舌小帯短縮症:舌の裏側にある筋(舌小帯)が通常よりも短い状態を指します。

 

舌小帯短縮症があると、舌が上手く動かせず、正しい発音が難しくなります。この状態は幼少期に発見されることが多いですが、放置されると成長後も発音の障害として残る可能性があります。

 

早めの舌小帯切除をすることも視野に入れて、患児の親との相談を重ねましょう。

 

ほかにも、舌のトレーニングを行うなど、子供の場合には選択肢が多く、改善していくことが多いです。

後天的な要因
筋力の低下や麻痺:舌筋が弱まることや外傷による神経麻痺が挙げられます。

高齢者の嚥下障害に関係することが多く、舌足らずが発症した場合は、同時に食べ物をうまく飲み込めなくなるリスクも高まります。  また、脳梗塞などの後遺症で麻痺が残った場合にも似たような症状になります。

 

だからこそ、悪化しないように体操や訓練などを行うこともあります。オーラルフレイルのように予備段階からの筋力低下防止策を患者にお伝えしていくことも歯科医院の役割だと感じています。

矯正治療や義歯装着後の一時的な症状  
歯列矯正や義歯の装着により、発音に違和感を感じることがあります。これは装置や義歯が口腔内の感覚や動きを一時的に変化させるためですが、適応が進むにつれて解消するケースがほとんどです。

 

装着後すぐの期間は、滑舌が悪くなり、舌足らずな発音になってしまいます。コミュニケーションが取りにくくなることもありますので、しっかりと患者に寄り添い大丈夫だということを伝えるようにしていきましょう。

舌足らずの評価方法  

「サ行」や「ラ行」の発音が不明瞭かどうかを確認します。「さしすせそ」などの繰り返しで舌の動きを評価しましょう。  

 

子供の舌足らず(発音の発達)をチェックする方法は、年齢に応じた発達基準を参考にすると分かりやすいです。一般的な目安として、年齢別に確認できる発音のポイントとチェック方法を以下にまとめました。

・1~2歳

簡単な単語(「ママ」「パパ」など)を使ってコミュニケーションを取り始めます。いくつかの単語が話せることが多い。まだ多くの音がはっきりしないことが多いです。理解できる単語が増えているかにも注目します。

・2~3歳

単語を組み合わせて簡単なフレーズが使えるようになります。多くの音がはっきりと発音できるようになり、特に母音や「ま行」「な行」の音がクリアになってきます。単語の終わりをはっきり発音できるか確認します。また、両親以外の他者が理解できるようになっているかも判断ポイントです。

・3~4歳

母音や簡単な子音(「さ行」「た行」など)を正確に発音できることが増えてきます。この時期は、「ら行」や「きゃ行」の発音がまだ曖昧になることもあります。舌が上顎に触れる発音(「た」「ら」など)や、口を閉じた発音(「ぱ」「ば」など)ができているかを確認します。「サ行」や「タ行」が特に難しいため、確認対象になります。

・4~5歳

ほとんどの日本語の音が発音できるようになります。「ら行」や「きゃ」「しゃ」などの複雑な音がまだ少し曖昧であることもあります。舌の使い方が重要になる音が発音できているかを確認します。「ら行」がしっかり発音できるかも重要なポイントです。

・5~6歳

ほとんどの発音がしっかりとできるようになり、会話がスムーズになります。「ら行」や「しゃ行」などもクリアになっていることが理想です。保育園や学校などで友達同士の会話に支障が出ていないかも観察します。

筋機能療法(MFT)の導入  

筋機能療法(MFT)は、舌や口周りの筋肉を鍛えるトレーニング法です。歯科衛生士が指導できる内容には、次のようなものがあります。  

 

・舌のストレッチ:舌を上顎につけて数秒間キープする運動  

・日常的な発音練習:「サ行」や「ラ行」の音を繰り返し発声する  

・嚥下トレーニング:小量の水を使った飲み込み練習

 

これらのトレーニングにより、発音の改善だけでなく、嚥下機能の向上も期待できます。

患者への説明やコミュニケーション

子供の場合、舌足らずは、本人にとっても周囲の人にとってもストレスの要因になることがあります。特に子どもの場合、早期に対処しないと自己肯定感が低下するリスクがあるため、保護者への理解を促すことが大切です。

 

高齢者の場合、舌足らずと嚥下障害が複合的に現れることが多いため、コミュニケーションが難しくなることで孤立を招くこともあります。歯科衛生士が積極的にサポートし、患者の話に耳を傾けることが重要です。

舌足らずの改善がもたらす効果

舌足らずの改善は、単に発音が明瞭になるだけでなく、生活の質の向上や心理的な自信の回復にもつながります。

 

私はこれまで、舌足らずが原因で人前で話すのを避けていた患者さんが、適切なサポートを受けて自信を取り戻した姿を見てきました。歯科衛生士として、発音や嚥下に関する問題に早期に気づき、患者に寄り添ったケアを提供することが、何より大切だと感じています。

 

患者の生活の中で、コミュニケーションの楽しさや食事の喜びを取り戻せるよう、今後も一人ひとりに合わせたサポートを続けていきましょう。

 

原田
 

一覧へ