咬合状態が悪いと、歯の破折や顎関節症、カリエス、歯周病などあらゆる症状を招いてしまいます。
口腔内だけの問題にかぎらず、身体のバランスの悪化にもつながり、結果的に全身に影響が出てしまうでしょう。
噛み合わせの確認指標の1つに咬合平面があります。
そのなかにスピーの弯曲やモンソンカーブという解剖学的からみた弯曲が存在します。
スピーの弯曲は、理想的な噛み合わせの基準にもなっており、咬合治療には必要な指標です。
今回は、スピーの弯曲について深堀りしながら解説していきましょう。
咬合弯曲「スピーの弯曲」とは
咬合湾曲といえばスピーの弯曲を思い浮かべるでしょう。
スピーの弯曲は、1890年ドイツの解剖学者によって唱えられました。
スピーの弯曲とは、下顎歯列を横方向(頬側)から見たときに、下顎犬歯の遠心隅角から下顎臼歯部頬側咬頭頂にかけて下方へわずかに弯曲した曲線のことを示します。
よく、下顎中切歯の切縁の接触面と下顎第二大臼歯の遠心頬側咬頭頂を結ぶ咬合平面が用いられますが、実際には平面ではなく咬合曲面が正しい解釈です。
というのも、歯列を横から観察してみると前歯から大臼歯にかけて少しずつ上方に反った形をしていることが窺えます。
このスピーの弯曲がまったくないと、咬合関係が崩れ、冒頭でもお話したさまざまな問題につながるのです。
スピーの弯曲+ウィルソンの弯曲=モンソンカーブ
スピーの湾曲のほかに、歯列を前方から見た弯曲線があります。
それがウイルソンの弯曲です。
ウィルソンの弯曲は、歯列を前方から見たときに左右の大臼歯の頬舌側咬頭を連ねるようにできた弯曲のことをいいます。
前から見たときに、上顎や下顎の弯曲が下方に凹んだ曲線に見えるのが特徴です。
さらに歯列を前方から見たとき、下顎大臼歯の舌側咬頭が頬側咬頭よりも低く、舌側に15度ほど傾斜しているため弯曲ができます。
これをモンソンカーブと呼びます。
モンソンカーブは、前頭面だけではなく矢状面と両方の弯曲の要素を持ちあわせます。
つまりモンソンカーブは、スピーの弯曲とウィルソンの弯曲の両方の要素をもっている曲線というわけです。
いずれにせよ、これらの咬合弯曲は咬合様式をつくるうえで大事な曲線だといえるでしょう。
理想的な咬合関係におけるスピーの弯曲とは
咬合関係をみる基準にスピーの弯曲があることをお話しました。
咬耗や不正咬合の場合、スピーの弯曲のカーブがきつくなったり、逆になったりすると噛み合わせのバランスが崩れてしまいます。
では、理想的な噛み合わせでみたスピーの弯曲のカーブには決まりがあるのでしょうか。
ここでは理想的な咬合関係を示す「正常咬合への6つの鍵」を紹介しましょう。
正常咬合への6つの鍵(The six keys to normal occlusion)
正常咬合への6つの鍵とは、1972年にストレートアーチワイヤーアプライアンス(SWA)を考案したAndrewsが提唱した正常咬合の分類です。
Angleの不正咬合の分類が有名ですが、正常咬合への6つの鍵も理想的な噛み合わせをみる指標として用いられています。
【第1の鍵】
◆上下顎歯列間の関係
上下臼歯が緊密な3点接触により、良好な咬合嵌合が得られる
【第2の鍵】
◆歯冠のアンギュレーション(ティップ)
歯冠の長軸と歯肉側部の適正な遠心傾斜が必要
【第3の鍵】
◆歯冠のトルク
適切な歯冠の唇頬舌的傾斜を示す
【第4の鍵】
◆ローテーション
歯の捻転がみられない
【第5の鍵】
◆緊密な歯冠接触
隣接する歯の接触は緊密であり、空隙がない
【第6の鍵】
◆スピーの弯曲
平坦か、わずかに弧を描く程度が理想
下顎第二大臼歯の最も顕著な咬頭と下顎中切歯の端を結ぶ線からの計測で1.5mmをこえる深さの弯曲はない
まとめ
スピーの弯曲は、上下の歯が咬頭嵌合位以外の接触をしないために必要です。
さらに上下の歯列間の空隙を適切に保つことや咀嚼にも役立っています。
このように咬合平面というのは噛みやすさだけにかぎらず、あらゆる場面にも関係しているのです。
スピーの弯曲について少しでも理解を深められたでしょうか。
今日の臨床のお役に立てられましたら幸いです。
〈ライター〉
歯科衛生士:土井