講師紹介 伊藤高史

- 伊藤高史
- いとう歯科医院 院長
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骨粗鬆症治療薬(BP製剤)を服用中で抜歯ができず、通院困難なため義歯新製も難しい90代患者の症例です。
著しい咬耗や動揺歯がある中、既存の義歯を「ティッシュコンディショナー」のみで調整し、咀嚼機能を回復させる実践的なテクニックを紹介します。
特に、不適合が大きな義歯に対して材料を「固練り」して対応する方法や、松風製品とGC製品の硬化特性の違いに基づいた使い分けは必見です。あえて咬合をいじらず、患者の現在の適応能力を尊重する「介入しすぎない治療」の重要性が学べます。
本動画では、90代で骨粗鬆症のためビスフォスフォネート製剤を服用しており、抜歯等の外科処置が禁忌かつ通院が困難な患者への義歯対応を解説しています。
主訴は「奥歯で噛めない」ことでしたが、義歯は増歯修理を繰り返した古いもので、人工歯の咬耗も著しい状態でした。
演者は、無理に新製や抜歯を行わず、動揺している残存歯が自然脱落するまでの「時間稼ぎ」として、既存義歯の機能を維持する方針を選択しました。
最大のポイントは、顎堤と義歯床の間に大きな隙間がある場合のマテリアルワークです。通常よりもティッシュコンディショナー(粘膜調整材)を固めに練り、厚みを持たせてライニング材のように使用しています。
ここで演者は、メーカーによる材料特性の違いに言及しています。松風の製品は硬化が緩やかで、固練りしても操作余裕があり厚盛りに適している一方、GCの製品は硬化がシャープで、薄く流す用途に向いているという臨床実感に基づいた使い分けが披露されます。
今回は適合が大きく不良であったため、松風の材料を選択し、ヘラで垂れないほどの固さで使用することで、一度の処置で適合を回復させました。
また、咬耗による低位咬合が見られても、患者自身が現状で咀嚼できており、不満を訴えていない場合は、バイトアップなどの介入を控えるべきだと説いています。
高齢者の場合、良かれと思った咬合挙上がかえって適応不全を招くリスクがあるためです。患者の訴えに耳を傾け、必要最小限の処置でQOLを維持する姿勢は、超高齢社会における歯科治療の重要な指針となります。
