こんな方におすすめ
今回の講義内容は、クリンチェックをつくるうえで新渡戸講師がどんなことを考えているか、またどのような視点から治療計画を立てているかについて掘り下げていく内容になります。
予測実現性を高めるためのクリンチェック作成及び、アライナー枚数を減らす方法を中心として、最後までご覧ください。
動画の紹介
歯科医院向けのセミナー配信サイト「ORTC online」では歯科医療従事者が専門的な知識と技術を習得することを目的に、さまざまなな診療科目のセミナーや動画配信を行っております。
今回ご紹介するのは、医療法人社団杏壬会池袋みんなの歯医者さん矯正歯科・こども歯科理事長兼院長を勤める新渡戸康希講師です。
今回のセミナー動画は、以下の先生におすすめします。
?これからマウスピース矯正を始めようと考える先生
?初めてクリンチェックをする先生
?知識はあるが、自信がない先生
動画内容
上顎前突、叢生の上下顎4番抜歯のクリンチェック症例
では、こちらの症例を見ていきましょう。
この症例は、マウスピースが36枚で終了された患者のクリンチェックです。
口腔内の状態を見ると、上下顎両側4番抜歯が実施されています。
●4番抜歯後のスペース距離
・右上8.0ミリ
・左上7.7ミリ
・右下6.9ミリ
・左下6.4ミリ
4番を抜歯したことで、大きなスペースが確保されました。
症例を見る限り、上下顎4番抜歯をせずとも進められたのではないか?と思いの先生もおられるかもしれません。
なぜ新渡戸講師は抜歯するに至ったのか、その理由や考え方についてお話いたします。
上下顎4番を抜歯するに至った理由
まずは、抜歯しない選択をした場合の治療法を見ていきましょう。
●口腔内の状況
・前歯部叢生がややキツめ
この情報だけだと抜歯する理由にはならないかと思います。
もちろん、叢生だけなら抜歯せずに治療することも可能です。
●抜歯しない治療例
・7番を遠心移動する
・側方拡大する
・IPRする
これらの治療法を選べば、抜歯せずとも叢生はある程度キレイに並べられます。
ですが、これだけの情報で判断することは非常に危険です。
なぜなら治療計画の段階で、患者に聞くべき「あるポイント」を押さえていなければ、間違った治療法をご提案してしまうことになるからです。
そこで、新渡戸講師が重要視しているポイントを紹介しましょう。
●新渡戸講師が大切にしているポイント
・その人がなにを1番大切にしているかを把握する
患者は、はじめて会う先生に悩みを正直に伝えられるでしょうか。
おそらく、無理だと思われます。
なぜならデリケートな悩みほど、他人に打ち明けることは非常に難しいからです。
本心が「出っ歯が気になる」であったとしても、「歯並びが気になる」のように抽象的な伝え方をする患者が多いことを覚えておきましょう。
話は戻りますが、患者の本心を聞き出せずに与えられた情報だけで矯正計画を立てるとします。
●表面的な主訴から導き出された情報
・叢生
・翼状捻転
これらの症状だけを1~1年半かけて治療した場合、患者の満足度はどうなるでしょうか。
本心では「出っ歯を治したい」はずですので、歯が並んだだけでは満足しないと思われます。
大事なのは、患者の本心を引き出すこと。
そのためにも先生には治療計画を立てる前に、患者に聞いていただきたいことがあります。
●初診時、相談事に確認しておくべきポイント
・口元を後ろに下げるか
・口元をいまよりコンパクトにしたいか
・Eラインをキレイに整えたいか
この3点は、先の「出っ歯」に通じる質問です。
「出っ歯」というワードを出さずに、オブラートに包みつつも伝わりやすいワードで患者に確認します。
そうすることで、患者の本心を引き出すことができるのです。
そしてこちらのクリンチェックの症例患者が、まさに「口元を後ろに下げたい」方でした。
叢生だけを治療したいわけではなかったのです。
そこから治療計画を組み立てると、やはり7番の遠心移動や側方拡大、IPRだけではスペースが確保できないことがおわかりになると思います。
以上のことから、上下顎4番抜歯を選択しました。
4番抜歯するメリット
もちろん、以上の理由を差し置いても4番抜歯せずとも治療できる先生もいることでしょう。
しかし新渡戸講師は、4番を抜歯するメリットについてこう説明しています。
先ほど、4番抜歯をした際のスペース距離を紹介しました。
上下左右合わせると、スペース距離が15.7ミリになります。
この数字を見るとおわかりになるかと思いますが、遠心移動や側方拡大、IPRだけでは、これだけのスペース確保は難しいと言えます。
以上のことからも、やはり4番抜歯が妥当でありメリットにつながるのです。
クリンチェックで確認すること
これらの情報を基に、クリンチェックを見ていきましょう。
新渡戸講師は、常にマウスピースは30枚前後の作成を視野に入れていると言います。
もちろん、このままの治療計画でゴールを目指すことは考えておりません。
あくまでも重要視することは、患者の本心から基づいた主訴である「出っ歯を治す」こと。
そのため、まずは下顎をリトラクションすることだけを視野に入れています。
そして最初の治療計画は以下の通りです。
●ファースト治療計画
・スピーの彎曲改善
・レベリング
・叢生の改善
以上の3つを意識します。
そして治療計画でも、半年程度(30枚程度)で上下顎の叢生が並ぶように計画を立てました。
クリンチェックの見方
では、ここからクリンチェックの見方について説明します。
まずは、治療計画が終了した段階の状況を確認していきましょう。
●治療計画終了時の状況
・上下顎の叢生はほぼ改善傾向
・治療計画通りでない
・臼歯部はやや近心傾斜あり
・咬合不全あり
ここまで把握できましたら、次に修正案を提示していきます。
修正する場合、コメント入力される先生がいると思いますが、コメント入力には縛りが設けられているため注意が必要です。
●修正をコメント指示する場合の注意点
・治療計画はエンジニアが立てる
・マウスピース枚数は変更不可
以上のことからも、自由に修正可能な「3Dコントロール」を使用されるほうが望ましいでしょう。
3Dコントロールは、右上にある「治療計画4」をクリックすることで開始されます。
3Dコントロール機能と修正ポイント
3Dコントロールでは、あらゆる機能を駆使することが可能です。
●3Dコントロールで扱える主な機能
・圧下、挺出
・頬側、舌側移動
・近心、遠心移動
・回転
・クラウンアンギュレーション
・ルートトルク
・マルチプレーン(すべてを動かす機能)
これらの機能を使用して、修正をしていきます。
さらに修正時、青丸と黒丸が確認できますが、こちらも併せて意味を理解しましょう。
●青丸、黒丸の意味
・青丸→使用法に基づいて使用したとしても、予測実現性にバラツキがある
・黒丸→使用法に基づいて使用したとしても、予測実現性が低い
以上のことから、どちらも希望通りの位置に動かすことが難しいことから、丸のついた箇所は削除するほうが望ましいでしょう。
●青丸、黒丸の消し方
丸部分にカーソルを合わせると「移動評価」が確認できます。
すると挺出量が表示されるので、出た数字よりも低い数字に変更しましょう。
もちろん、必ず消してくださいというわけではありません。
先生の考える治療計画であれば、そのまま進めていただいて結構です。
まとめ
今回は、「上顎前突、叢生からくる上下顎4番抜歯のクリンチェック症例」についてお届けいたしました。
症例内容だけでなく、患者の真の主訴を導き出しながら治療計画を立てていくと、患者満足度にまでつながる良い例だったかと思います。
抜歯をする・しないの選択は先生の治療方針でもあると思いますが、最優先するべきはあくまでも患者であることを念頭に入れながら、治療計画を立てていただけますと幸いです。